その視界を彩るもの






『………ウイ。アンタ、初めて会ったときアタシが何て言ったか覚えてる?』

「えぇ?なんか言ったっけ」

『でしょうね……』



はぁ、と呆れを混じておとされた溜め息。もうすっかり短くなってしまった煙草は、あたしと会話を交わしている所為で余りイサゾーの口許に運ばれることは無くて。

最後に目一杯煙を肺に吸い込むと、イサゾーは灰皿を引き寄せて潔くそれを揉み消す。






『"こんな失態晒すつもり無かったのよ"って言ったでしょ。聞き覚えない?』

「あー……うん、聞いたような気がする」

『……アンタ……』



絶対覚えてないでしょ、と付け加えられたイサゾーの台詞は聞かなかったことにした。

でも、それがどうしたんだろう。そう思って訊ねてみると。







『だから、普段はこれでも上手くやってんのよ。アタシが"こう"なのを知ってるのは、まあ家族とアンタだけね』

「え!?そんなに少ないの!?」

『そうよ。だから言うんじゃないわよ』




そう口にしてニヤリ、と。悪戯っぽい笑みを浮かべてみせたイサゾー。

口止めするならもっと早くしてよ。そうは思ったけれど、今の今までそうしなかったのはまるであたしが吹聴しないとイサゾー自身が確信していたから――…そんな風に思ってしまうのは自意識過剰だろうか?

でも、真意はどうであれ嬉しいことに変わりは無くて。







『そういうワケだから《天龍》の人間は勿論知らな、――……って。なにニヤけてんのよ』

「べっつにー。ふふふ」

『………。 ホントになんでアタシ、アンタにばらしちゃったんだろ』

「もう後悔しても遅いもんねー!」







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