その視界を彩るもの
「………うわ」
思わず口から飛び出した声を自覚。直ぐに手で口許を覆い、げんなりと肩を落とす。
校門の柱に軽く背を付け、視線を斜めに流しているそいつ。どこ見てるんだろう。
そんな奴の様子を目の当たりにして物憂げ且つ儚げな印象を抱いたらしい女の子たちは、「王子様みたい……」と目をハートにして見つめている。
王子様とか……、イサゾーが王子様とか。
堪え切れない笑みを噛み殺すように肩を震わせていれば、女の子たちに距離を隔てられているにも関わらずイサゾーがこっちを見た。
――――の、だけれど。
「静かにしろ」
「―――……ッ、!」
背後からぬっと現れた正体不明の男によって、あたしの口許は一瞬の内に覆われてしまって。
余りに素早いその動作に、紛うことなき凡人のあたしは目を見開くことで精一杯。
背後に人が居ることにも気付かなかったし。ど、どうしよう!
「はふぁしへふださ(離してくださ)―――」
「静かにしろって言ってるだろ、眠らされたいのかオマエ」
「……!!」
耳元で囁かれる中性的な、でも一般人が震え上がるには充分すぎるほど有無を言わせぬ口調。
身を捩って逃げ出そうとしていたあたしだったけれど、「眠らされる=殴られる」ということには早々に気が付いた。
理解してしまったら下手に抵抗なんて出来ない。だって、殴られたくない。
引き摺られる恰好のまま女の子で一杯の校門から引き離される。
向こうであたしの存在に気付いたらしいイサゾーが、血相を変えて此方に向かおうとしている。けれど……たぶん駄目だ、追い付けない。
だってあたしを抱えているにも関わらずこの男、歩を進めるスピードが速い。
無理矢理動かされる脚。視界の隅で揺れている鞄が、否応なしにあの日のことを思い起こさせる。