無愛想な同期の甘やかな恋情
「う、うん。もちろん」


私は慌てて返事をした。
すぐに取り繕って、ニッコリと笑いかける。


「じゃ、仕事が終わったら、ラボに行く」

「うん」


穂高君は、頷いて返してくれた。


「あ。……なにか、食べたい物があったら、買っていくけど」


思い出したようにそう続けると、彼は苦笑を浮かべた。


「そういうのは、気にしないでいいから」


そう言って、軽く手を振って、会議室から出ていった。
私も急いでオフィスに戻って仕事を済ませ、午後七時過ぎにラボを訪ねた。
いつもと同じく、穂高君からは事務所で待つよう指示をもらう。


この時間なら、まだ事務員が残っている可能性もある。
だから私は、中に入る前にドア口からひょこっと顔を出し、事務所を覗き込んだ。


ここからでも視界に入る、事務員のデスク。
そこに、糸山さんが残っていた。


『こんばんは』と声をかけようとして、私はハッと息をのんだ。
そして、凍りついたように立ち竦む。


糸山さんは、一人ではなかった。
隣のデスクから椅子を借りて、彼女の隣に寄せて座っている間中さんと、なにか楽しげに話している。


間中さんは白衣姿で、研究の合間に事務所に立ち寄り、息抜きといった感じだった。
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