無愛想な同期の甘やかな恋情
彼は、ここに間中さんがいるのを知っているようだ。
彼がなにを気にして、もう一人の研究員がここに来るのを止めたのか、私にはよくわからない。


でも、その声に冷やかしのような色が滲んだせいで、私の胸はやけに速く拍動し始める。
止められた方の研究員も、なにかピンときたようだ。
「あ、そっか」とあっさりと納得する。


「確実に、邪魔になるな」

「そうそう。今じゃなくていいなら、行かなくてもいいだろ。野暮なだけだから」


二人の研究員は、研究室の方にまっすぐ進んでいったようだ。
事務所前の廊下から、笑い声と足音が遠ざかっていく。


私はドア口から、無意識に一歩後退していた。
なにかに縋るように、離れていく研究員の姿を探して振り返る。


間中さんと、糸山さんって――。


これまで、気にしないようにしていた。
でも、胸の奥には、小さな疑惑が巣食っている。
それが今、確かな形になって膨らんでいくのがわかる。


ドッドッと強い音を立てて、加速し始める鼓動を抑えようとして、胸に手を当てた、その時。
背後から、弾むように駆ける靴音が聞こえてきた。


「悪い、お待たせ、冴島」


飄々とした声で呼びかけられ、私はギクッと肩を強張らせた。
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