無愛想な同期の甘やかな恋情
その反応が不審だったのか、私の後ろで足を止めた穂高君が、「冴島?」と訊ねてくる。


「あ、あの」


不安に駆られ、目が泳いでしまう私に、彼は一瞬訝しそうな顔をした。
何気ない様子で事務所の中をひょいと窺い、


「あ……」


間中さんと糸山さんに気付いたのか、短い声を漏らした。
彼が、私にスッと目線を流す。
なにも言わず、私の腕をぎゅっと掴んだ。
力強く腕を引かれ、反射的に顔を上げた私に……。


「来い、冴島」


短い命令をして、事務所に背を向けた。
そのまま、研究室の方に歩いていく。


「穂高君、あの」

「企画の話なら、俺の研究室で聞くから」

「そうじゃなくて。間中さん。間中さんって……」


言いたいことも聞きたいこともあるけど、私の思考回路はまともに働かず、なにから口にしていいのかわからない。
間中さんの名前を紡いで、そのまま俯く私に、穂高君が頭上で溜め息を漏らす。


「どっちにしても、廊下で話すことじゃない。とにかく、こっちに来い」


穂高君は、手の力を緩めようとはしない。
私は、今も事務所に二人でいる間中さんたちが気になって、何度も振り返ってしまう。
だけど、この場に残って、二人を見ていられるわけもなく――。
穂高君に腕を引かれ、事務所から離れるしかなかった。
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