無愛想な同期の甘やかな恋情
私の返事はワンテンポ遅れ、彼にもう一度呼ばせる間を与えてしまった。


胸いっぱいに広がる不安。
そこから生まれる動揺を隠せず、私は穂高君とまっすぐ目を合わせることができない。
穂高君はわずかに眉根を寄せて、一度ハッと浅い息を吐いた。


「これ。この企画のこと」


穂高君は、私の思考が企画から逸れているのを、見透かしている。
私の意識を戻そうとしているのか、資料を自分の顔の高さに持ち上げ、バサッと音を立てて揺らした。


乾いたごわついた音に、私は何度か瞬きをした。
そして、ハッと我に返る。


企画のことで相談したいと言って、穂高君に時間を作ってもらったのは私なのに。
私は今、完全に上の空になっていた。


「ご、ごめん」


慌てて謝ってから、ピンと背筋を伸ばした。
穂高君は私の様子を最後まで観察して、無言で溜め息をつく。


「これ。どのブランドでやろうって言うんだ?」


そう言いながら、手に持った資料を、長い指でパチッと弾いた。


「え?」

「『AQUA SILK』じゃないだろう?」


私が穂高君に相談したのは、男性向けの基礎化粧品だった。
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