無愛想な同期の甘やかな恋情
うちの会社では、既に一つ、男性向けのブランドがあって、間中さんが研究主任を務めている。
今回私が企画したのは、それとは違うブランドの起ち上げにも繋げられるものだった。


女性向けの化粧品は、対象年齢ごとに異なる四つのブランドで展開している。
女性ほどの需要はなく、今のところ男性向けは、全年齢対象の一ブランドのみ。


でも、近年、男性の美意識は上昇していて、ひと昔前とは比較にならない、というマーケティング結果も出ている。
だから、男性向けも若年層と壮年層で二つに分けて、よりターゲットを絞ったブランド展開を提案しようと考えたからだ。


「うん。あのね」


私はなんとか気持ちを切り替え、穂高君に説明しようとした。


「冴島。『AQUA SILK』は、この先もずっと、さらなるブランド展開を求められる。名実ともに、うちのメインブランドなんだ。今、他に関わってる余裕なんかないだろ」


なのに彼が、私を窘めるように遮る。


「それはもちろんわかってる。『AQUA SILK』の商品もちゃんと考えてる。でも、これもやってみたいの」


自信を持って反論する私に、穂高君が眉間の皺をいっそう深くして、鋭い瞳を向けてきた。
強く射竦められる感覚に、一瞬怯む。
それでも胸を張って、中断させられた説明を続けようとした。
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