無愛想な同期の甘やかな恋情
微かな不満が、声に滲んでいたのだろう。
穂高君は無言でわずかの間逡巡してから、小さく息を吐いた。


「お前が、本当に俺に堕ちたら」


唇の先で紡ぐ不明瞭な声に、私は耳を澄ます。


「その時、白状してやるよ」


そんな一言を残し、穂高君は私を抱きしめる腕を解いた。


「え?」


聞き返す私に背を向け、逆側でベッドから降りる。
黒いボクサーパンツしか身に着けていない、彼の裸体が目に飛び込んできて、私は慌ててタオルケットを頭から被った。
その向こうで、彼がクスッと笑った気配を感じる。


「朝メシ、トーストしかないけど、いい?」


そんな声がかけられ、私はそおっとタオルケットから顔を出した。


穂高君は、すでにルーズパンツを腰で穿いていて、ベッドの足元を通って寝室のドアに向かって歩いていた。


「え? あ、あの。お構いなく……」


咄嗟にそう返した私を、彼はドアに手をかけながら振り返った。
そして、どこか無邪気ではにかんだ笑みを浮かべる。
今まで見たこともない表情に、ドキッと胸を弾ませる私に。


「一緒に朝メシ食って、仕事行こう。美紅」


彼は躊躇うことなくそう言って、小首を傾げた。
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