無愛想な同期の甘やかな恋情
蒸し暑い上に大混雑で、殺人的な通勤電車から解放され、私は穂高君と並んで、オフィスに向かって地上の通りを歩いた。
夏本番。
東京の街に降り注ぐ太陽は、今日も朝から猛威を奮っている。


ギラギラの陽射しに肌が焼かれ、なんだかジリジリする。
まだ朝だというのに、グレーのアスファルトには、陽炎が立ち込めている。
足元からも熱気が上ってくる中、私たちのんびりと会話しながら歩を進めた。


本社ビルまでは、駅からまっすぐ。
別棟に行く穂高君とは、途中で別れることになる。
分岐路で一度立ち止まり、『またね』と手を振って、彼の背中が見えなくなるまで見送った。


私を追い越して行ったサラリーマンが、なんとも怪訝そうな顔をして、振り返っている。
怪訝を通り越して不気味そうにも見えるから、心の中で『なによ、失礼ね』とムッとしたものの……。


「っ!」


私が不気味がられる理由は、すぐに思い当たった。
穂高君を見送っている間ずっと、顔が綻んでいたせいだ。
朝から身に堪える酷暑に見舞われた、このオフィス街のど真ん中で、顔の筋肉を完全に緩ませ、ニヤニヤしていた私は、そりゃあ気味が悪いだろう。


不審な自分を自覚して、頬にカアッと熱が上った。
浮かれすぎてることを思い知り、猛烈な恥ずかしさが込み上げてくる。
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