無愛想な同期の甘やかな恋情
「考えてた案はあるんだけどね。今は、温める時かなって、思い直して」


満員電車の中で、穂高君にも宣言したことを思い出し、胸を張ってそう告げる。
篠崎君は納得してくれたのか、何度か「うんうん」と頷いた。


「じゃあ、次の目玉は古谷さんになるのかな」

「え?」


顎を撫でながらなにか思案する彼に、私は瞬きを返す。
私の視線を受けた彼が、「ああ」と呟いた。


「昨夜、美紅さん、なんだか急いでて、バタバタ帰って行ったから聞いてないか」


昨夜……穂高君に、本社まで迎えに行くと言われた。
終業間際、私も気持ちが急いてしまい、篠崎君の言う通り、バタバタと片付けてオフィスを飛び出したことを思い出す。


「う、うん。そうね……」


その後のことまで芋づる式に記憶が蘇ってきて、私はドキドキしながら返事をした。
意味もなく、「ふうっ」と息を吐く私の隣で、篠崎君がその先を続けてくれる。


「なんか、絶対的に自信がある企画書ができたとか」

「絶対的に?」


篠崎君の言葉を繰り返して訊ねたのは、ちょっと訝しい気持ちになったからだ。


私たちは、自分の企画は自信を持って挙げているけれど、彼女がそこまで言い切る根拠が、どこにあるのかわからない。
篠崎君は、外国人みたいに両手を上げる仕草を見せて、ひょいと肩を竦めた。
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