無愛想な同期の甘やかな恋情
穂高君と『恋人』になった後も、お互い仕事が忙しいのに変わりはない。
夜も研究で遅くなることが多い彼とは、平日の夜はなかなかゆっくり会えない。
そうこうしているうちに、なんの約束もないままで夏季休業期間に入ってしまった。


付き合い始めてから、まだほんの二週間ほど。
二人で夏休みの予定を立てることはできなかったけれど、近場にお出かけするくらいの、普通の週末のようなデートはできるはず!
休暇に入る前日の夜、私は思い切って彼に電話をしてみた。


応答を待ちながら、『穂高君の方から誘ってほしかったな』と、心の中でほんのちょっとだけ詰る。
何度目かのコールで、やっと穂高君が『もしもし』と電話に出てくれた。
意味もなく緊張しながら、夏休みのお伺いを立てると……。


『あ~、悪い。俺たち研究員、夏休みないんだよ』

「ええっ……!?」


惚けた返事に、私は一瞬固まった。
うちの会社は、日本各地にある工場の操業停止期間に合わせて、毎年お盆に全社一斉で夏季休業になる。
でも、研究開発部の足並みは揃わないということだ。


『全員一週間休んでたら、菌が死ぬしね。毎日観察して、記録取らなきゃいけない研究もあるし。妻子持ち優先で休暇取るおかげで、お盆期間、独り身は出勤なの』
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