無愛想な同期の甘やかな恋情
それを聞いても、私は無言でさらに強く彼に寄りかかってやる。


「本当に、重いんですけど」

「女性に『重い』なんて、失礼です」

「力いっぱい寄りかかってるだろ。もうちょっとだから、待てって」


今、穂高君は、わざわざ私がラボに訪れたのと同じタイミングで、増殖実験に成功したという菌の観察に夢中だ。


『お昼前には出られるから、外で一緒にランチしよう』と、誘ってくれたのは穂高君の方なのに。
ウキウキしてラボまで迎えに来た私は、研究室に通してもらった途端白衣を着せられ、かれこれ二時間放置されたまま。


考えてみたら、研究中の穂高君を見るのは、初めてだ。
ちょっと新鮮な気分で、彼の真剣な横顔に魅せられていたのは、最初の三十分だけ。
二時間経っても、穂高君が実験の手を止める様子はないし、話しかけても生返事。
ランチを楽しみに朝食を抜いてきたから、お腹も空いた。


おかげで私は不機嫌になって、穂高君の後ろの丸椅子に座り、彼の背中に寄りかかるという行動に出た。
研究の邪魔はしたくないけど、せっかく一緒にいるのに、この二時間、彼の視界をなんだかわからない菌に奪われたまま。
そりゃあ私だって、拗ねる。
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