無愛想な同期の甘やかな恋情
彼らの邪魔にならないよう、通りの端に寄って足を止め、額に手を遣って「はあ」と溜め息をついた。


私は夏休みだけど、穂高君は仕事。
私がいようがいまいが、彼はいつもと変わらず実験に没頭していただけ。
彼がそうやって熱心に研究に打ち込んでくれるから、私も仕事に夢を持って頑張れるのだ。
なのに、ちょっと放っておかれただけで、なんでこんな子供みたいな我儘を……。


「なんだか、私の方が好きみたい」


悔し紛れに、ボソッと呟く。
拗ねた声を自分の耳で拾った途端、頬がカッと火照った。


そうだ。
私のこれって、恋人に構ってもらえない不満ゆえの我儘だ。
穂高君からの恋人宣言から、まだほんの二週間。
しかも、一緒にゆっくり過ごせた時間はなかったのに、あの時よりも彼を好きになっていることを自覚する。


穂高君は、私にはいつも一線置いた接し方で、つれなく素っ気なかったけれど、私はずっと彼を信頼していたし、もっと砕けた付き合い方がしたいと思っていた。
そこにはもちろん、一緒のチームで仕事をする同期への好意があったからだけど、今まで恋愛対象として意識したことはなかった。
なのに――。


穂高君に好きだと言われた時から、私の中で、彼の存在は確実に変化していた。
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