無愛想な同期の甘やかな恋情
踏み出せないまま終わった、間中さんへの恋心。
それなのに、穂高君とならと思ったのは、私もとっくに彼に強く惹かれていたせいだ。


私の恋心に灯った火は、穂高君の篝火と違って、勢いよく一気に燃え上がっている。
私の『好き』の方が、穂高君のよりも勢いがあって加速している。


彼よりも、私の方が好きになるのは、時間の問題かもしれない。
なのに、こんな我儘な私を見せていたら、嫌われてしまう……!


すぐに戻って、謝らなきゃ。
激しい焦燥感に駆られ、回れ右をしようとした、その時。


「っ、美紅っ!」


いきなり後ろから肘を掴まれ、ぐいと引っ張られた。


「きゃっ……! え?」


勢いがついたまま振り返ると、目の前に立っていた人にぶつかりそうになり、私は咄嗟に短い悲鳴をあげた。
一瞬後で、それが穂高君だと気付き、目を瞬かせる。


彼は苦し気に顔を歪め、大きく肩で息をしていた。
額にびっしり汗が滲んでいて、一つ雫になってこめかみに流れ落ちる。


「……こんな炎天下で、猛ダッシュしたの、何年ぶりだ……」


穂高君の声は、荒い息にのまれて切れ切れになる。
膝に両手を突き、がくっと身体を前に倒した。
< 156 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop