無愛想な同期の甘やかな恋情
「え、穂高君」


私は手を貸そうとして、彼に腕を伸ばした。
穂高君は呼吸を整えるように、お腹の底から「はああっ」と息を吐き出し、


「ごめん」


足元のアスファルトに顔を伏せたまま、そう言った。


「さっきの、先輩に託された実験だったから。ちょっと……放置もできず」


穂高君から謝罪されてしまい、私は慌ててブンブンと首を横に振った。


「そんな! 穂高君が謝らないで。さっきのは、絶対的に私が悪いんだから!」


汗ばんだ彼の両腕を取って、そっと身体を起こさせる。
穂高君は、まだ呼吸を乱したまま、「え?」と聞き返してくる。


「その……穂高君が、私より菌に夢中だから、変なヤキモチ妬いちゃって」


私は彼から目線を外して、しどろもどろになって説明する。


「え? 菌に?」

「バカでしょ。で、でも、二時間も一緒にいたのに、穂高君が私を見たの、通算してもほんの数分。穂高君の目には、ず~っと菌しか映ってなくて」


変な気分になって捲し立てる私の前で、穂高君は顔に手を当て、「はあああ」と太い息を吐いた。


「お前、なんなの」

「呆れたよね。本当に、ごめ……」
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