無愛想な同期の甘やかな恋情
まさに、その通りだ。
プリントに目を落としたまま絶句する私に、古谷さんが容赦なく畳みかけてくる。


「それは、先に相談した私に、チャンスを与えてくれるためです。その後も、ずっと親身になってアドバイスしてくれました。私、穂高さんと二人三脚で挙げた企画、絶対通る自信があります!」


古谷さんは、ほとんど仰け反らせる勢いで胸を張って、「ふん」と強気で私たちに踵を返した。
私は、デスクに戻っていく彼女の背を目で追ってから、再び手元に視線を落とした。


古谷さんの言葉が、本当に本当なのか。
どこからか嘘が交じっているのか、私にはなんの判断もできない。


でも、彼女が言ったのと同じ言葉を、私は穂高君本人から聞いた。
彼は私に、『AQUA SILK』以外の商品の企画を挙げるのを、踏み止まらせようとした。
『後輩に任せて』と、私に諦めさせようとしたのも事実だ。
でも私は、『諦めない』って、そう言ったのに……。


「美紅さん……」


篠崎君が、私を気遣っているような、おどおどした声で呼びかけてくる。
私は、彼にはなにも返さず、グッと声をのんだ。


確かめなきゃ。
私を『魔法使いだ』と言ってくれた、穂高君の『裏切り』。
信じたくないけど、私の心にはさざ波のような波紋が広がっていた。
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