無愛想な同期の甘やかな恋情
「奥のソファでお待ちください。今、お茶淹れますね」

「あ。糸山さん、お構いなく」


私は、きびきびと彼女を遮り、さっさと奥に進んだ。
私のただならぬ様子に気付いたのだろう。
『何事だ?』と言わんばかりに、きょとんとしている二人の視線を感じながら、ドスッとソファに腰を下ろした。
「ふう」と声に出して息をして前屈みになり、穂高君が来たらまずなんと言おうか、思考を巡らせる。


「えっと……冴島さん、なにかあった?」


間中さんが戸惑いを隠せない様子で、声をかけてくれる。
それにも表情を和らげることができないまま、「いえ」とだけ答えた。


そんな私も珍しかったのだろう。
間中さんも糸山さんも、それ以上はなにも言わず、ただ私を気にして息を潜めている。
事務所内の空気が、私のせいでなんだか重くなった時。


「冴島?」


穂高君が、事務所のドア口に姿を現した。
実験の途中、手を止めて来てくれたのだろう。
いつもの白衣姿で、走ってきたのか、わずかに息を弾ませている。


彼の視線がまっすぐこちらに向けられる中、私は弾かれたように立ち上がった。
穂高君は、間中さんたちをちらりと横目で見遣った。
二人に軽く会釈をしてから、大きな歩幅で私の方に歩いてくる。
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