無愛想な同期の甘やかな恋情
「冴島。話なら、俺の研究室で……」


多分、彼らの目を意識したんだろうけど、私は首を横に振って拒んだ。


「いいえ。ここでいい」

「え?」


彼を目にして緊張感が高まり、私の声はさらに固くなってしまったのだろう。
穂高君は怯んだように足を止める。
間中さんと糸山さんも、こちらを気にして、息を殺しているのがわかる。
それでも私は、グッと顔を上げて穂高君と対峙した。


「今日の企画会議で、古谷さんが発表したこと、聞いた」


私がそう切り出すと、穂高君は一瞬虚を衝かれたように首を傾げた。


「古谷? ええと……」

「社食で、穂高君に相談にのってほしいって言った、うちの企画の後輩。覚えてない?」


穂高君は黙って記憶を手繰った後、「ああ」と合点したように頷いた。


「思い出した。彼女、発表できたんだ?」

「ちょっと前から、絶対的な自信を持って次の企画出すって、公言してた。穂高君からアドバイスもらったおかげで、見事に有言実行したみたい」


知らないふりして、惚けてるんだろうか。
白々しいと思える反応に焦れて畳みかけると、やっと穂高君も表情を変えた。


「え?」


私を探るような、訝しげな視線が居心地悪くて、私はスッと顔を背けた。
< 173 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop