無愛想な同期の甘やかな恋情
「終わった~……っ」

「お疲れ様です、美紅さん」


私の二年下の後輩の篠崎君が、隣の席から労ってくれた。
それには、「うん」と頷いて答える。


「美紅さんほどの人でも、プレゼンは緊張するんですね」


感嘆したような言葉には、ほんのちょっと苦笑する。


「当たり前だよ。上手くいかなかったって落ち込むこともあるし、もっとこうすればよかったって、後で悔やむこともある。何度やっても、なかなか完璧には終わらないというか……」

「そういう意識の高さが、商品に表れるんでしょうね。美紅さんのプレゼン、みんな熱心に聞いてました。今回も商品化確実です」

「はは、ありがとう。でも、調子に乗っちゃうから、あんまり褒めないで」


私以上に興奮した様子の篠崎君にそう言って、私はもう一度「ふう」と息を吐いた。
無意識に右手で左の肩を解しながら後ろに顔を向け、大きな窓の外に目を遣る。


座ったままでは、周りに建つ高層ビルのてっぺんと、ちょっとどんよりした梅雨空しか拝めない。
私は立ち上がって窓辺に寄り、窓に手をついて眼下を見下ろした。


座っている目線より、もっとたくさんのビル群が視界に広がる。
遠くに見える皇居の緑は、この会議室から望める、オフィス街のオアシス。
日々の仕事の疲れやプレゼンの緊張で凝り固まった肩を解してくれる、癒しのような効果を感じる。
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