無愛想な同期の甘やかな恋情
惚けているのか、それとも、私には全然関心がないから、覚えてないのか。
彼は目線を宙に上げて、記憶を手繰るような顔をした。


「だから、その。……私が、間中さんのこと……」


自分でわざわざ言わなきゃいけないのが屈辱だけど、そうでもしないと穂高君は思い至ってくれなそうだ。
早くオフィスに戻って、午前中片付けられなかった業務を再開しなきゃいけない、という焦りもあり、私は焦れた気分で彼の思考を導いた。


「ああ」


穂高君は表情も変えずに、短い相槌を返す。


「それか」

「いつから気付いていたの? って言うか、穂高君に見抜かれるほど、私顔に出ちゃってるってこと?」


思わず、食い入るように質問を畳みかけてしまった。
私の剣幕に、さすがに穂高君もギョッと目を丸くして、背を反らして軽く逃げる。


「別に、気にするほど出てないよ。本人も気付いてないだろうし、いいんじゃん?」


他人事みたいにしれっと言われても、私は勢いよくブンブンと首を横に振った。


「よくない、全然。だって、穂高君は気付いたじゃない」

「そりゃ、俺は……」


頭を抱える勢いの私に、彼がなにか言いかけた。


「え?」


顔を上げて、ほとんど縋る気分で続きを待つ。
けれど彼は私からつっと視線を逸らし、大きな手で口元を覆って、「ああ、いや」と言葉を濁した。
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