無愛想な同期の甘やかな恋情
七月に入って、最初の金曜日。
この日は春夏モデルの売れ行き好調との報を受け、チームの祝賀会が予定されていた。
私は、事務仕事は五時前に切り上げ、オフィスを出た。


この時間になっても、むっと蒸し暑い夕刻の空気に、わずかにげんなりする。
それでも気を取り直して、アスファルトにヒールを打ち鳴らし、オフィス街を闊歩した。


近くの商業ビルに入っている、『AQUA SILK』のコーナーをいくつかはしごする。
販売員に、肌で感じる売れ筋や、お客様からの商品への要望をヒアリングしてから、会場のお店に向かった。


午後七時開始の祝賀会に、私は五分前に到着した。
オフィス近くのビルのレストランフロアにある、地鶏料理が名物の居酒屋のお座敷席。
誰かが連れてきたのか、チームメンバーの他にも、何人か見知った顔がある。


私は挨拶しながら、隅っこに腰を下ろした。
チームで一番の若手、販売部アシスタントの新井さんが、私におしぼりを手渡してくれる。


「ありがとう」


彼女に笑顔でお礼を言って、温かいおしぼりで手を拭いながら、私はお座敷内にサッと視線を走らせた。
掘りごたつ式の長いテーブルが二脚並んでいて、集まっているのは二十人ほど。
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