無愛想な同期の甘やかな恋情
嬉しくて、つい顔が綻んでしまいそうになり、慌てて唇を結んで引き締める。


「一応社内報に載るからって、大袈裟に盛ってくれただけよ」


図に乗りそうになるのを抑えて、素っ気なく返した時、会議室の外に出ていた社員たちがぞろぞろと戻ってきた。
それを見て、私も再び椅子に腰を下ろす。


「え~。でも、同期だし。高め合えるってメリットはあるでしょ?」


それまで顎を上げていた篠崎君の目線が、私を追って下がる。
高め合う。間違いない。
でも、どう答えようかと言い淀む間もなく、司会者がマイクを持って、会議の再開を宣言した。


本日四番目のプレゼンターが立ち上がり、休憩明けでちょっとざわついていた会議室が、しんと静まる。
篠崎君も、それまでとは打って変わって真剣な顔をして、手元の資料を捲り始めた。
それを横目で窺って、私は気付かれないようにホッと息をつく。


話題に挙がったせいで、私の脳裏には、同期の研究開発員、穂高歩武(あゆむ)の姿が浮かんでいた。
私と同じく入社七年目の二十八歳。
仕事熱心で優秀な研究員で、私の企画が初めて通った時、縁あってチームになった。


別のブランドの一商品だったそれがヒットしたのをきっかけに、二十代から三十代向けのメイクアッププランド『AQUA SILK』の起ち上げが決まった。
ブランド創設からのチームメンバーで、もう三年も『コンビ』を組んでいる。
< 4 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop