無愛想な同期の甘やかな恋情
それほど長いキスじゃなかったのに、私の息は乱れていた。
私は激しく困惑して、目の前で、穂高君の男の人にしては長い睫毛が震えるのを、見つめてしまう。
穂高君は、私の視線を意識しているだろうけど、目線を合わせずハッと浅い息を吐いた。


「ごめん」

「えっ……?」


わりと素直に向けられた謝罪になぜか怯み、私は反射的に聞き返していた。
すぐ目と鼻の先で、穂高君が一度目を伏せ、


「立て」


いきなり私の腕を掴み上げた。
先に立ち上がった彼につられて、脱力しきっていた私も引っ張り上げられる。


「っ、あっ」


私の足が縺れるのも構わず、穂高君はグイグイと腕を引いて、車道近くに歩いていった。
そして、通りかかった空車表示のタクシーにまっすぐ腕を伸ばし、


「お休み、冴島」


後部座席に私を無理矢理押し込んで、さっさとドアを閉めた。


「っ……え、穂高君っ……!?」


私と彼を遮るドアに両手を突いて、思わず声をあげてしまったけれど。


「どちらまで?」


バックミラー越しに、運転手さんが目を向けている。
それを見て、私は窓から手を離した。
タクシーの進行方向とは逆に向かって歩いていく、穂高君の背中を目で追いながら……。


「……品川まで」


自分のマンションの住所を告げていた。
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