無愛想な同期の甘やかな恋情
「そりゃ、珍しく弾けてたけど。最後まで、声も受け答えもしっかりしてたから、そんなに酔ってたとは思わず」


それには、こめかみをポリッと指で掻き、はは、と苦笑してみせる。


「私、あんまり顔に出ないらしくて。普通にみんなと別れた後、どうやって帰ったか覚えてないとか、わりとしょっちゅうで」


新井さんに説明しながら、私は横に立っている穂高君にチラリと横目を向けた。
私の話を聞いて、彼が今どう思っているのか。
相変わらず表情の変化は乏しく、私にはやっぱり読めない。


「え、っと。穂高君。なんか、迷惑かけたみたいで、ごめんね!」


私は思い切って彼に向き合い、一際明るく声を張った。


「それから、ありがとうございました」

「え……?」


穂高君は口元に手を当て、やや戸惑い気味に聞き返してくる。


「私、土曜日の朝、いつも通りちゃんと家のベッドで寝てた。それに、タクシーの領収書があったから。穂高君が、私がタクシーに乗るまで、見届けてくれたんでしょ?」


彼の視線を感じながら、私は一気に捲し立てた。
穂高君が、なにか返そうと口を開く前に、


「助かりました! ほんとに、ありがとう。それから、以後、羽目を外さないように気をつけます!」


勢いよく、頭を下げた。
穂高君の反応を待たずに背筋を伸ばし、顔を背けてその視線から逃げる。
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