無愛想な同期の甘やかな恋情
「さ、雑談終わり! 二人とも、早く入ろう。会議、始まっちゃう」


私は、穂高君の顔が見られない。
新井さんに笑いかけながら、穂高君の腕をポンと叩き、二人に入室を促した。


「あ、はいっ」


ややポカンとしていた新井さんも我に返った様子で、「あ」と会議室のドアに目を向ける。


「いけない! ただでさえ遅くなったんだった!」


やっとそれを思い出し、ちょっと慌てて中に駆け込んでいく。
私もクスクス笑いながら、彼女を追ってドアに向かった。
そこに、


「冴島」


穂高君が、呼びかけてくる。
なんだかいつもよりもトーンを落とした低い声が、私を探っているように聞こえる。


私は、ゴクッと唾を飲んだ。
鼓動が加速するのを阻止しようと胸に手を当ててから、そっと振り返った。


「ほら、穂高君も、早く!」


いつもと同じ笑顔で、声をかけたつもり、だったけど。
自分でもわかる。
頬の辺りの筋肉が、ヒクヒクと引き攣ってしまったから、多分相当ぎこちなかったはずだ。


穂高君の方は、ほんの少し唇を動かしただけで、ほとんど表情を変えない。
でも私は、微かな動きを見せた彼の唇に視線を奪われ、一瞬そこに釘付けになってしまい……。


ドクン、と心臓が沸き立つような音を立てるのを自覚して、慌ててしっかりと背を向けた。
小走りで会議室に入る私を、彼も今度は呼び止めようとしなかった。
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