無愛想な同期の甘やかな恋情
昔から、私はおしゃれをするのが大好きな子供だった。
物心ついた頃には、出かける前に母がメイクをする姿を、いつも飽きずにじーっと見ていた。
そうやって、とても綺麗になる母に、ずっとずっと憧れていた。


母の目を盗んでこっそりメイク道具を使って、見様見真似でやってみて、怒られたことは何度もある。
母は、『美紅は、もっと大人になったらね』と呆れたけれど、少しでも可愛くなりたい私の女心には共感してくれたようだ。
誕生日やクリスマス、特別なイベントの時に、私にも少しだけメイクをしてくれるようになった。


鏡の中で変化していく自分を、バカみたいにジッと見ていた。
母譲りの二重目蓋の大きな目は、ピンク色のアイシャドウを挿すとほんのりと色づき、女の子らしくなる。
ぽってりした唇も、ベビーピンクのリップスティックを塗ると、よりふっくらして丸みが出る。
終わるといつも、母は私にこう言った。


『ほ~ら、美紅。お姫様になった』


いつも母を、シンデレラをお姫様にした魔法使いみたいだと思っていた。
そして、私をお姫様にしてくれる化粧品は、魔法のアイテム。


そんな風にしてメイクに馴染み、おしゃれすることに夢中だった十代。
就職活動をする際、私が化粧品会社を第一希望にしたのは、必然だったとも言える。


私は魔法使いにはなれないけれど、女性を綺麗にする魔法のアイテムを作る仕事に携わりたい――。
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