無愛想な同期の甘やかな恋情
「ごめんね。飲み会の席で、こんなお願いしちゃって」

「え?」


穂高君が、レポート用紙から顔を上げたのが、視界の端に映る。


「さっき、間中さんから聞いた。穂高君、この一週間、ずっと午前帰りでこの実験進めてくれてたって」


彼ではなくミラーに視線を向けたまま、次の紅を塗る。


「いつも通り、ちゃんと企画書で依頼すれば、穂高君にそこまで無茶させなくて済ん……」

「覚えてないんじゃ、なかったか?」

「え?」


低い声で遮られて、私はリップブラシを動かす手を止めた。
そして、ゆっくり穂高君に顔を向ける。
彼はテーブルに頬杖をついたままの格好で、私を斜めの角度で見つめている。


「え、っと?」

「お前、祝賀会のこと、途中から覚えてないって、そう言った」

「……!」


冷静に指摘されて、私はハッと息をのんだ。


「この実験頼まれたの、一次会が終わる間際だったけど」


正面からまっすぐ見据えられて、私の胸がドクッと震えるような音を立てた。
そんな反応も、穂高君は見逃さない。


「っ、あの。……そこまでは、ちゃんと覚えてて……」

「俺が送って、一緒に帰ったこと。覚えてないフリ、したかったのか?」


いつもよりもトーンを落とした静かな声で、私を容赦なく探ってくる。
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