無愛想な同期の甘やかな恋情
『ここじゃ、他の研究員の目につくから』と、穂高君は私を自分の研究室に連れて行った。
今日は、昨夜と同じ黒い実験テーブルではなく、そこを通り過ぎて奥の附室に私を誘う。


ここは顔を覗かせたことがある程度で、中に入れてもらうのは初めてだ。
穂高君のデスクには、スクリーンセーバーがかかったノートパソコンが二台置いてあり、書類がちょっと乱雑に広がっている。


一晩泊まりで、私が訪れるまで根を詰めて研究していたのが、よくわかる。
心の赴くまま、朝っぱらから押しかけてしまって、私はかなり邪魔になってしまった。


「……ごめんね、穂高君」


戸口に立ち、恐縮しながら肩を縮ませると、穂高君がちらりと私を振り返った。


「いいから、入って。冴島」

「でも」

「ラボの休憩所、いつ行っても人がいるし。ほら。この奥、行くよ」

「奥?」


首を傾げた私に、彼はわずかに悪戯っぽく目を細めた。
ちょっとレアな表情にドキッとしている私を余所に、「そう」と頷き、すぐに前を向いてしまう。


「あ、待って」


さっさと進んでいく穂高君の背を、慌てて追った。
戸口からでは、デスクの後ろの高いキャビネが視界の妨げになっていて、その奥までは見渡せない。
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