無愛想な同期の甘やかな恋情
「穂高君。そんな前から、私のこと知ってたの?」


うちの会社は一応大手企業だから、同期は百数十人いる。
ラボにも穂高君の他に何人かいるけど、顔と名前が一致する人はいなかった。
だからこそ、私は最初に間中さんを頼ったわけで。


私のちょっと裏返った声を聞いて、穂高君は「あ」と口を手で押さえる。
けれど、小さな息を吐き、すぐに手を離した。


「……コンビニで見かける度に、いつも同じ物買ってる女が、商品企画部所属の同期だった、って情報は、後付けだけどね」

「そ、そうだったんだ」


ワンパターンだな、とでも思われてたんだろうか。
もう何年も前の、残業に気合を入れていた自分が、ちょっと恥ずかしくなる。


穂高君はなにも言わずに、早速おにぎりを口に運んでいた。
パリッと海苔が割れる音が、小気味よく響く。


口を閉じ、モグモグと顎を動かす端整な横顔を、私はそっと見つめた。
そして、袋からツナマヨのおにぎりを取り出し、膝の上に置いて目を伏せる。


「あの……穂高君」


肩肘張って、改まって呼びかけた声が、ちょっと固くなった。
それは、自分でも自覚していたけれど。


「わかってるから、いい」


穂高君はプランターの花を見遣り、淡々とした口調で私を遮った。
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