無愛想な同期の甘やかな恋情
「え?」


思わず顔を向けると、彼はハッと浅い息を吐く。


「冴島が、間中さんに片想いしてるのは、重々承知してる」


表情も変えずに言われて、私の方が口ごもった。
彼はもう一口おにぎりを齧り、ゆっくりと咀嚼している。


「それでもお前を好きになって、言わずにいられなくなった俺が悪い」


男らしい喉仏を上下させて、ゴクンと飲み込んでから、静かにそう続けた。
私は思わず、おにぎりを両手でぎゅっと握りしめてしまう。


「……ごめんね」


俯いてそれだけ呟く。
わずかな沈黙の後、彼がふうっと息をついた。


「バーカ。強引にキスされた冴島が、なんで謝る」

「そ、それはそう、だけど」

「……返事はいいけど、これは聞きたい」


短い逡巡の後、穂高君がポツリと呟いた。
それに反応して、私は再び彼の横顔に目を向ける。
彼は、手に残ったおにぎりの最後の一片を、ぽいっと口に放り込んでから、私を窺うように見遣った。


「ほとんど接点なかったはずなのに。お前、なんで、間中さんに惚れたの?」


斜めの角度から探りかけられ、私は一瞬ドキッとしてしまった。
でも、ここで答えるのを拒むのは、私を好きだと言ってくれた穂高君の前で、誠実じゃない。
< 80 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop