無愛想な同期の甘やかな恋情
朝食を終えた後も、私は穂高君といろんなことを話しながら、ラボで過ごした。
お互いの子供の頃のこと、そして、穂高君の夢のこと。


「私の夢は話したんだから、穂高君も教えてよ」と探る私に、彼は特に表情も変えずに「ノーベル化学賞受賞」と言った。
随分と大きく出た穂高君に、私は素でギョッと目を剥いた。
彼は私に構わず、「でもまあ、もう無理だな」と、大して残念そうな様子もなく呟く。


「就活の時、志望してた化学研究所の教授推薦受けられなくてね。この会社に来た時点で、そんなの海の藻屑と消えた」

「え~……。それは残念、だったけど……。もしかして穂高君、うちの会社、嫌だったの?」


私にはその方が残念で、肩を落として訊ねる。
彼は壁に背を預け、腕組みをしながら、「最初はね」と即答した。


「なんで俺が化粧品なんか、って思ってた。だから、面接の時は、食品部門とかバイオ化学部門とかが志望だって言うつもりでいたんだけどね……」


穂高君は言葉を切って目線を宙に上げると、「ふう」と声に出して息を吐いた。


「直前で、気が変わった」

「へ?」

「化粧品会社なんだから、社名を冠した商品の研究に就くのが、一番幸せなのかも、ってね」

「ええと……それは、会社の主力部門だから、ってこと?」


穂高君らしくない、なんだかミーハーな理由に、私はちょっと拍子抜けしたものの。
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