無愛想な同期の甘やかな恋情
「っ……なっ!」


してやったり、といった表情でニヤッと笑う穂高君に、私の胸がドッドッと激しい音を立てて加速し始めた。


「だ、だったら、今だって……!」

「俺、もう全部お前に曝け出しちゃったし。変に繕うとか器用な真似できないから」


あまりに太々しい言い草に、私はポカンとしてしまう。
その顔が面白かったのか、穂高君はくくっと小気味よい笑い声をあげた。


「でもまあ……。俺、冴島には正攻法で攻めるから」


彼はしれっとそう言いながら、なにかに気がついたように、白衣の左の袖をちょんと摘まんだ。
手首に嵌めたオメガのごつい腕時計で、時間を確認している。
それにつられて、私も自分の腕時計に目を落とすと、彼は「よっ」と掛け声をかけて立ち上がっていた。


「冴島の方も、そろそろだろ?」


頭上から促されて、私も慌てて立ち上がる。


「そ、そうだね。もう行かなきゃ」


まだだいぶ時間があると思っていたのに、気付くと始業時刻の三十分前になっていた。
今まで、できなかったのが不思議なくらい、穂高君との会話は弾んだ。
それがとても楽しくて、時間が過ぎるのを忘れてしまっていたけど。


「あの、穂高君」


先に研究室の附室に戻っていく彼の背を、私はそっと呼び止めた。
< 88 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop