無愛想な同期の甘やかな恋情
顔を向けてくれない穂高君の強気な宣言に、私の胸の鼓動がドクッと大きくリズムを狂わせた。
私は無意識にピタッと足を止めてしまう。


「だから、ちょっとは俺を意識してみて」


彼は事務所の方には向かわず、ラボの正面玄関にまっすぐ歩いて行く。
そこまで私を送ってくれるつもりなのだろう。
私はきゅんと疼いた胸にグッと握った拳を押し当ててから、床を蹴って彼の隣に走った。


「穂高君、あの……」


私が呼びかけると同時に、穂高君は前を向いたまま突然立ち止まった。
それにつられて、私も歩を止めて……。


「あれ。歩武と冴島さん? おはよう」


正面玄関の方から、まさに今出勤してきた様子の間中さんが大きく手を振っていた。
その隣には、事務員の糸山さんもいる。


「美紅さん! おはようございま~す」


彼女にも笑顔で挨拶されて、私も軽く手を振ってみせた。


「お、おはようございます。間中さん、糸山さん」


朝一番で、間中さんと会うことができた……。
隣に穂高君がいるのに、私の胸はドキドキと騒ぎ出してしまう。


「おはようございます」


私たちの前まで歩いてきた間中さんたちに、穂高君も挨拶を返す。
間中さんは、並んで立ち止まる私たちを交互に見遣って顎を摩りながら、なにやらニヤッと笑った。
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