無愛想な同期の甘やかな恋情
ただでさえ、毎日のこの酷暑にやられて気持ちが弱ってるという時に、自分への陰口を聞くというのは、なかなか心が折れる。
無意識に重い溜め息を重ねた時、プリプリしていた古谷さんが、やや上擦った声で「穂高さん!」と呼ぶのが聞こえた。
それには、私も篠崎君も、「え」と同じ反応をして、古谷さんの方に顔を向けてしまう。


彼女が目線を上げる先に、確かに穂高君がいた。
ワイシャツに白衣姿の彼は、今社食に来たところなのか、大盛りのカレーがのったトレーを手に、古谷さんの呼びかけに足を止めている。


「え?」


穂高君が聞き返すと、古谷さんはなんだか舞い上がった様子で、ガタンと音を立てて椅子から立ち上がった。
彼女と一緒に食事をしていた何人かも、興味津々な様子で、二人に注目している。


「あのっ。私、商品企画部の古谷といいます。その……今度是非、穂高さんに企画のご相談させていただきたくて」


古谷さんの肩に、相当な力がこもっているのは、こうして見ているだけでもわかる。


「……真っ赤。声、裏返っちゃってますね」


篠崎君が揶揄した通り、私の陰口を言っていたのとは別人のように、甲高い声で穂高君にお願いしている。


「はあ……」


穂高君は、見ず知らずといっていい彼女に、突然呼び止められて困惑しているのか、返す声にもあまり抑揚が感じられない。
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