無愛想な同期の甘やかな恋情
「研究依頼なら、ラボの集合アドレスにメールしといてくれれば。手の空いてる研究員が対応しますよ」


私には、穂高君らしいと思える素っ気ない返事も、古谷さんにとっては無情なものだったのだろう。
彼女は「え」と声をのんだ。


「あの、でも。私、穂高さんに……」


声のトーンが落ち、ちょっと小さく消え入ってしまう。
俯く古谷さんに、穂高君は特に表情を動かすことなく、「悪いけど」と言った。


「俺は、『AQUA SILK』だけで手いっぱいだから」

「で、ですから、私も『AQUA SILK』の新商品として出せるように、考えようと」

「ごめん」


一歩前に踏み出して食い下がる古谷さんに、穂高君はやや背を引きながら、短く謝罪をした。
そして。


「言い方変える。俺、冴島の才能に惚れ込んでるんだ。彼女以外の企画を手がける心の余裕がないほどにね」


真顔で、しれっと口にした。
聞き耳を立てていた私は、思わずぶっと吹き出してしまう。
慌てて両手で口を覆って、顔を伏せた。
存在を隠そうとして、身を縮めたけれど……。


「……冴島」


穂高君に、気付かれてしまった。
ギクッと肩を竦めてから、そちらにそおっと目を向ける。
彼が目を瞠って、私をまっすぐ見ていた。
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