無愛想な同期の甘やかな恋情
「あっ……」


古谷さんの方も、私に気がついたようだ。
ハッと息をのみ、気まずそうに顔を歪めて、目を泳がせた。
彼女と一緒にいた人たちも、『あ」という形に口を開けて、そそくさと席を立ってしまう。


「あ、ちょっと、待っ……」


置いて行かれた古谷さんも、慌ててその背に声をかけながらトレーを持ち上げ、バタバタと逃げて行ってしまった。
篠崎君は、古谷さんを目で追った後、私と穂高君に交互に視線を向け……。


「穂高さん! よかったら、ここどうぞ!」


穂高君に明るく声をかけて、立ち上がった。


「えっ!?」


私はひっくり返った声をあげて、篠崎君を見上げる。


「え……」


穂高君も、端整な顔に戸惑いを過ぎらせ、私にちらっと横目を流してきたけれど。


「俺、もう退きますんで。美紅さん、先に戻ってますね」


篠崎君は、なぜだか「えへへ」とはにかみ、トレーを持っていそいそと立ち去っていった。
穂高君はなんだか呆けたように、その背を振り返って見送っていたけど。


「じゃあ、いい?」


篠崎君が座っていた席に目を向け、私に許可を求めてくる。


「う、うん。もちろん、どうぞ」


なんだか変な緊張感が沸いてきて、彼への返事がぎこちなくなってしまう。
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