地味子と偽装同棲始めました-恋愛関係にはならないという契約で!
11.気になった娘との再会の場を設営してもらった!
あの合コンから1週間後くらいに社員食堂で隆一が隣に座った。そして俺に小声で伝えた。
「例のおまえの気になっていた女子のことだけど、この前の先方の幹事とお礼方々話をした」
「なんて言ったんだ?」
「俺の親友の篠原真一君が石野絵里香さんを気に入ったみたいで、どうしてももう一度会いたいと言っていると伝えた」
「それで」
「絵里香って、どの子というので、カラオケで『レモン』を歌っていた娘と言うと分かったみたいで、彼女に聞いてみるからと言ってくれた。それで昨晩、俺に連絡があった」
「どうだった?」
「その絵里香に真一ともう一度会う気があるか聞いてみたところ、1対1ではダメと言われたそうだ。それで、その娘に説得を頼んで、俺と真一とその幹事の山内さんと、2対2で会う約束を取り付けた」
「ありがたい、手数をかけたな」
「それでいつに設定する?」
「早いに越したことがないから、今週の金曜日、間違いない時間で、8時集合ではどうか、先方と調整してくれ。費用はすべて俺が持つ」
「悪いな」
「こっちこそ、すまん。俺のために」
「気にするな」
絵里香にもう一度会えそうだ。隆一は本当に頼りになる。
◆ ◆ ◆
次の日の5時過ぎに隆一から内線入る。話があるから休憩コーナーへ来てほしいという。
「話って何?」
「例の彼女の件だ」
「それで、金曜日はOKか?」
「ああ、条件付きだ、2対2でカラオケならいいそうだ」
「それで十分だ」
「それとその幹事から彼女のことを聞いた」
「聞かせてくれ」
「それで彼女のことなんだが、あることが原因で男性不信になって、しばらくは、お付き合いはしたくないそうだ」
「その原因を聞いたんだが、はっきりとは言わなかったが、前に付き合っていた同じ会社の男性に裏切られたのがショックだったようだと言っていた」
「裏切られたって?」
「上司からセクハラを受けて相談したのに無視された上にかばってくれなかったということらしい。聞いたのはここまでだ」
「少し陰があったような気がしたのはそのせいかもしれないな」
「それでも会ってみたいのか」
「ああ、気になっているので、もう一度会ってみたい。だから設営を頼む」
◆ ◆ ◆
金曜日の7時過ぎに、隆一とレストランで落ち合って、軽く食事をする。
「おまえらしくないな。そっけなくされた女子を追いかけるなんて」
「逃げると追いかけたくなる」
「おまえのプライドが許さないのか?」
「いや、彼女の雰囲気というか、何かに惹かれるんだ。理由は分からない」
「まあ、余り深入りしない方が良いかもしれないな」
「そうかな」
「今回の真一は今までとは少し違うからな」
「そうか、大丈夫だ」
予約したカラオケ店のビルの前で待っていると二人が現れた。二人とも派手ではないが大人びた服で来た。絵里香と一緒に来た女性はこの前も見ていたせいかどこかで会ったような気がした。
隆一が二人をエスコートしてカラオケ店に入る。俺は後から続いて入る。時間は2時間ということになった。
案内された部屋は4人では十分な広さがあり、お互いに離れて座れる。二人は向こう側に坐った。飲み物を注文した。俺たちはハイボールを頼んだが、彼女らはウーロン茶とジンジャエールだった。
酔わせてどうこうしようなんて思ってはいないが、これじゃあ盛り上がらない。まあ、しらふで話をするのも悪くない。
最初から話がしにくい雰囲気なので、隆一が「俺がまず1曲歌う」と曲を入れて歌い始める。気を使ってくれている。隆一が歌っている間、俺は絵里香を見ていた。
絵里香はそれが分かっているのか、ずっと隆一の方を見ている。終わると拍手をする。俺と目を合わせようとしない。
続いて、絵里香の相方の女性が1曲歌う。絵里香は相変わらず歌っている彼女の方を見ている。
「彼女、名前は何と言ったっけ」
「山内さんです」
「山内さんか、どこかで以前に会ったような気がする」
「この間の合コンでしょう」
「そうかな、まあいいか、それより、次は俺が歌う。君には『レモン』を歌ってほしいけど,入れておいても良い?」
「はい、お願いします」
さすがに俺が歌う時は俺の方を向いてくれた。俺は絵里香を見つめて歌った。この前の「さよならをするために」を歌う。この歌は元カノのことを歌った歌だと思う。この場に合わない歌ではない。歌い終わると絵里香は拍手してくれた。
次は絵里香の番だ。歌い始めるが、この前よりも数段うまくなっているように思った。この歌は女性が歌うと情感があってとてもいい。終わると拍手する。
「情感が籠ってとてもよかった。この前より上手になったね」
「あれから練習しましたから」
「男性不信だと、隆一から聞いたけど、来てくれたんだ」
「彼女に歌でも歌って気を紛らしたほうが良いと説得されてきました」
「じゃあ、その気がないこともない訳だ」
「今はお付き合いなんかしたくありません」
「少しリハビリをした方がよいと思うけど」
「リハビリしても元に戻らないこともあります」
「完治しなくてもいくらかは良くはなると思うけどね。前の恋人に裏切られたと聞いたけど、聞かせてくれないか、話すとリハビリになると思うけど」
「話したくありません」
「彼女には聞いてもらったんだろ、男の俺にも話してくれてもいいじゃないか。男の気持ちは分かるつもりだ」
「まあ言われてみれば全く無関係の人だから差し障りないのかもしれませんね」
「話す気になってきた?」
「上司からセクハラを受けたんです。執拗なセクハラです。3年先輩の付き合っている人がいて、その上司に自分と付き合っているからやめてほしいと言ってほしいと頼んだのですが」
「してもらえなかった?」
「自分で解決しないといけないと言って働きかけをしてもらえませんでした」
「難しいところだね」
「それで彼女に相談して、会社に訴えて、その上司が異動になり、ようやく解決しました。でも彼はそのことが噂になると、私から距離を置くようになり、結局別れてしまいました」
「彼は保身のために君と離れたんだね。分からなくもないけど」
「私は彼がとっても好きで彼にすべてをかけていました。お付き合いしていることも彼のために会社では秘密にしていました。それを良いことに、分からないように私から離れていきました。そんな彼を好きになった私がバカだったのかもしれません。それで男性が信じられなくなりました」
「俺だったらそんなことはしない。守ったと思う」
「思うというのは自身に降りかかったことではないからです。その時どうするかは分かりません」
「そうかもしれない。でも俺は会社にしがみつこうとは思っていないから」
「どうしてですか」
「いずれ辞めようかとも思っているからだ」
「それならそういう発言もできると思います」
「会社をどうしても辞められないとしたら、彼とは同じ行動はとらないと言えますか?」
「おいおい、話に夢中になるのはいいが、歌を歌ったらどうだい。そのために来たんじゃないか」
「そうだな、俺の番か、じゃあ、この曲で」
答えに窮したところで隆一が助け船を出してくれた。そばにいて聞こえたみたいだ。彼女も感情的になっていた。これ以上話すとせっかくの関係が壊れる。そこまではしたくない。
歌っているが、彼女の言葉が耳に残っている。何と答えようか? 考えながら歌い終わった。
「次は君の番だ、新曲を頼みます」
「練習中ですが『君を許せたら』をお願いします」
「それも俺の好きな曲だ」
絵里香は歌った。これもとても上手だった。情感が籠っている気がした。席に戻ってくる。
「これが今の君の心境なのか?」
「どうお思いになるかはあなたの自由です」
「さっきの質問の答えだけど、俺には仮定の話だから答えられない。その状況でないと答えが出ない。申し訳ない」
「いいんです。きっとその程度にしか私は好かれていなかったのですから」
「君の言うとおりかもしれない。反論はできない」
隆一も相方の彼女と話している。時々こちらを見るのは俺たちのことが気になっているのか、俺たちを話題にしているのかどちらかだ。そうこうしているうちに二人はデュエット曲を歌い始めた。
「あっちは結構二人で盛り上がっているみたいだ」
「彼女は親友でセクハラの時も励ましてくれました。今日も彼女が一緒でなければ来ないところでした。この前の合コンもいつまでも引っ込んでいてはいけないと言って無理に連れて来られたんです」
「そう言う意味では俺も彼女に感謝しないといけないな。また、会える?」
「分かりません?」
「携帯の番号を教えてくれないか?」
「ダメです」
「じゃあ、メルアドくらいはいいじゃないか? いやなら見なくて削除すればいいだけだから」
「じゃあ、メルアドだけなら」
とうとう絵里香はメルアドを教えてくれた。これで繋がりはできた。今日のところはこれでよしとしよう。俺たちはのっている彼ら二人のデュエット曲をずっと聞くことになった。
約束の時間が過ぎて出口で2組に別れた。ただし、俺と隆一、絵里香と山内さんの2組だ。俺たちは飲み直そうと隆一の知り合いのバーへ行った。少し歩いて振り向くと2人の姿はもう見えなかった。
「隆一は山内さんと何を話していた?」
「おまえたちのことだ。ひょっとすると似合いだと言っていた」
「どこが似合いだ?」
「真一はあんな陰のある感じの女子を好きになるみたいだからだ。昔からそうだった。でも周りにくる娘は明るい子ばかりだったからな」
「そうかもしれない。あまり明るい娘は裏があるみたいでどうも気が許せない」
「陰がある娘は陰が気になるだろう。それに裏がないとも言えないだろう」
「そうだな」
「でも、山内さんの話では彼女いい娘みたいだよ。元彼にすごく尽くしていたそうだ。だからなおさら捨てられて可哀そうだったと言っていた」
「おまえなら癒してやれるかもしれないな」
「どうかな、難しそうな娘だ」
「でも気になるんだろう」
「そうだ」
「今回会ったことでますます気になってきた」
「真一らしくないな」
「こういうのを恋するというのかもしれないな。初めての感情だ。自分でも気持ちを冷静にコントロールできない」
「まあ、頑張ってみることだな、悔いのないように」
「分かっている」
小一時間飲んでマンションに帰ってきた。地味子はすでに帰っていた。昼頃メールが入って、今日は10時過ぎになると連絡があった。俺は11時過ぎと返信しておいた。「ただいま」と部屋に声をかけると「おかえり」と言ってくれた。
シャワーを浴びてベッドで横になる。心地よい疲労が眠気を誘う。絵里香に会えてよかった。メルアドをもらったことを思い出してメールを入れる。グーグルのアドレスだけど繋がるだろう。
[今日は会ってくれてありがとう。また、会いたい。おやすみ]と送った。思いのほか早く、すぐに返信が来た。
[今日はありがとうございました。歌を聞いてくれてありがとう。おやすみ]とだけ書かれていた。
返事をくれたことから、嫌われてはいないと思った。これで安心してぐっすり眠れる。
「例のおまえの気になっていた女子のことだけど、この前の先方の幹事とお礼方々話をした」
「なんて言ったんだ?」
「俺の親友の篠原真一君が石野絵里香さんを気に入ったみたいで、どうしてももう一度会いたいと言っていると伝えた」
「それで」
「絵里香って、どの子というので、カラオケで『レモン』を歌っていた娘と言うと分かったみたいで、彼女に聞いてみるからと言ってくれた。それで昨晩、俺に連絡があった」
「どうだった?」
「その絵里香に真一ともう一度会う気があるか聞いてみたところ、1対1ではダメと言われたそうだ。それで、その娘に説得を頼んで、俺と真一とその幹事の山内さんと、2対2で会う約束を取り付けた」
「ありがたい、手数をかけたな」
「それでいつに設定する?」
「早いに越したことがないから、今週の金曜日、間違いない時間で、8時集合ではどうか、先方と調整してくれ。費用はすべて俺が持つ」
「悪いな」
「こっちこそ、すまん。俺のために」
「気にするな」
絵里香にもう一度会えそうだ。隆一は本当に頼りになる。
◆ ◆ ◆
次の日の5時過ぎに隆一から内線入る。話があるから休憩コーナーへ来てほしいという。
「話って何?」
「例の彼女の件だ」
「それで、金曜日はOKか?」
「ああ、条件付きだ、2対2でカラオケならいいそうだ」
「それで十分だ」
「それとその幹事から彼女のことを聞いた」
「聞かせてくれ」
「それで彼女のことなんだが、あることが原因で男性不信になって、しばらくは、お付き合いはしたくないそうだ」
「その原因を聞いたんだが、はっきりとは言わなかったが、前に付き合っていた同じ会社の男性に裏切られたのがショックだったようだと言っていた」
「裏切られたって?」
「上司からセクハラを受けて相談したのに無視された上にかばってくれなかったということらしい。聞いたのはここまでだ」
「少し陰があったような気がしたのはそのせいかもしれないな」
「それでも会ってみたいのか」
「ああ、気になっているので、もう一度会ってみたい。だから設営を頼む」
◆ ◆ ◆
金曜日の7時過ぎに、隆一とレストランで落ち合って、軽く食事をする。
「おまえらしくないな。そっけなくされた女子を追いかけるなんて」
「逃げると追いかけたくなる」
「おまえのプライドが許さないのか?」
「いや、彼女の雰囲気というか、何かに惹かれるんだ。理由は分からない」
「まあ、余り深入りしない方が良いかもしれないな」
「そうかな」
「今回の真一は今までとは少し違うからな」
「そうか、大丈夫だ」
予約したカラオケ店のビルの前で待っていると二人が現れた。二人とも派手ではないが大人びた服で来た。絵里香と一緒に来た女性はこの前も見ていたせいかどこかで会ったような気がした。
隆一が二人をエスコートしてカラオケ店に入る。俺は後から続いて入る。時間は2時間ということになった。
案内された部屋は4人では十分な広さがあり、お互いに離れて座れる。二人は向こう側に坐った。飲み物を注文した。俺たちはハイボールを頼んだが、彼女らはウーロン茶とジンジャエールだった。
酔わせてどうこうしようなんて思ってはいないが、これじゃあ盛り上がらない。まあ、しらふで話をするのも悪くない。
最初から話がしにくい雰囲気なので、隆一が「俺がまず1曲歌う」と曲を入れて歌い始める。気を使ってくれている。隆一が歌っている間、俺は絵里香を見ていた。
絵里香はそれが分かっているのか、ずっと隆一の方を見ている。終わると拍手をする。俺と目を合わせようとしない。
続いて、絵里香の相方の女性が1曲歌う。絵里香は相変わらず歌っている彼女の方を見ている。
「彼女、名前は何と言ったっけ」
「山内さんです」
「山内さんか、どこかで以前に会ったような気がする」
「この間の合コンでしょう」
「そうかな、まあいいか、それより、次は俺が歌う。君には『レモン』を歌ってほしいけど,入れておいても良い?」
「はい、お願いします」
さすがに俺が歌う時は俺の方を向いてくれた。俺は絵里香を見つめて歌った。この前の「さよならをするために」を歌う。この歌は元カノのことを歌った歌だと思う。この場に合わない歌ではない。歌い終わると絵里香は拍手してくれた。
次は絵里香の番だ。歌い始めるが、この前よりも数段うまくなっているように思った。この歌は女性が歌うと情感があってとてもいい。終わると拍手する。
「情感が籠ってとてもよかった。この前より上手になったね」
「あれから練習しましたから」
「男性不信だと、隆一から聞いたけど、来てくれたんだ」
「彼女に歌でも歌って気を紛らしたほうが良いと説得されてきました」
「じゃあ、その気がないこともない訳だ」
「今はお付き合いなんかしたくありません」
「少しリハビリをした方がよいと思うけど」
「リハビリしても元に戻らないこともあります」
「完治しなくてもいくらかは良くはなると思うけどね。前の恋人に裏切られたと聞いたけど、聞かせてくれないか、話すとリハビリになると思うけど」
「話したくありません」
「彼女には聞いてもらったんだろ、男の俺にも話してくれてもいいじゃないか。男の気持ちは分かるつもりだ」
「まあ言われてみれば全く無関係の人だから差し障りないのかもしれませんね」
「話す気になってきた?」
「上司からセクハラを受けたんです。執拗なセクハラです。3年先輩の付き合っている人がいて、その上司に自分と付き合っているからやめてほしいと言ってほしいと頼んだのですが」
「してもらえなかった?」
「自分で解決しないといけないと言って働きかけをしてもらえませんでした」
「難しいところだね」
「それで彼女に相談して、会社に訴えて、その上司が異動になり、ようやく解決しました。でも彼はそのことが噂になると、私から距離を置くようになり、結局別れてしまいました」
「彼は保身のために君と離れたんだね。分からなくもないけど」
「私は彼がとっても好きで彼にすべてをかけていました。お付き合いしていることも彼のために会社では秘密にしていました。それを良いことに、分からないように私から離れていきました。そんな彼を好きになった私がバカだったのかもしれません。それで男性が信じられなくなりました」
「俺だったらそんなことはしない。守ったと思う」
「思うというのは自身に降りかかったことではないからです。その時どうするかは分かりません」
「そうかもしれない。でも俺は会社にしがみつこうとは思っていないから」
「どうしてですか」
「いずれ辞めようかとも思っているからだ」
「それならそういう発言もできると思います」
「会社をどうしても辞められないとしたら、彼とは同じ行動はとらないと言えますか?」
「おいおい、話に夢中になるのはいいが、歌を歌ったらどうだい。そのために来たんじゃないか」
「そうだな、俺の番か、じゃあ、この曲で」
答えに窮したところで隆一が助け船を出してくれた。そばにいて聞こえたみたいだ。彼女も感情的になっていた。これ以上話すとせっかくの関係が壊れる。そこまではしたくない。
歌っているが、彼女の言葉が耳に残っている。何と答えようか? 考えながら歌い終わった。
「次は君の番だ、新曲を頼みます」
「練習中ですが『君を許せたら』をお願いします」
「それも俺の好きな曲だ」
絵里香は歌った。これもとても上手だった。情感が籠っている気がした。席に戻ってくる。
「これが今の君の心境なのか?」
「どうお思いになるかはあなたの自由です」
「さっきの質問の答えだけど、俺には仮定の話だから答えられない。その状況でないと答えが出ない。申し訳ない」
「いいんです。きっとその程度にしか私は好かれていなかったのですから」
「君の言うとおりかもしれない。反論はできない」
隆一も相方の彼女と話している。時々こちらを見るのは俺たちのことが気になっているのか、俺たちを話題にしているのかどちらかだ。そうこうしているうちに二人はデュエット曲を歌い始めた。
「あっちは結構二人で盛り上がっているみたいだ」
「彼女は親友でセクハラの時も励ましてくれました。今日も彼女が一緒でなければ来ないところでした。この前の合コンもいつまでも引っ込んでいてはいけないと言って無理に連れて来られたんです」
「そう言う意味では俺も彼女に感謝しないといけないな。また、会える?」
「分かりません?」
「携帯の番号を教えてくれないか?」
「ダメです」
「じゃあ、メルアドくらいはいいじゃないか? いやなら見なくて削除すればいいだけだから」
「じゃあ、メルアドだけなら」
とうとう絵里香はメルアドを教えてくれた。これで繋がりはできた。今日のところはこれでよしとしよう。俺たちはのっている彼ら二人のデュエット曲をずっと聞くことになった。
約束の時間が過ぎて出口で2組に別れた。ただし、俺と隆一、絵里香と山内さんの2組だ。俺たちは飲み直そうと隆一の知り合いのバーへ行った。少し歩いて振り向くと2人の姿はもう見えなかった。
「隆一は山内さんと何を話していた?」
「おまえたちのことだ。ひょっとすると似合いだと言っていた」
「どこが似合いだ?」
「真一はあんな陰のある感じの女子を好きになるみたいだからだ。昔からそうだった。でも周りにくる娘は明るい子ばかりだったからな」
「そうかもしれない。あまり明るい娘は裏があるみたいでどうも気が許せない」
「陰がある娘は陰が気になるだろう。それに裏がないとも言えないだろう」
「そうだな」
「でも、山内さんの話では彼女いい娘みたいだよ。元彼にすごく尽くしていたそうだ。だからなおさら捨てられて可哀そうだったと言っていた」
「おまえなら癒してやれるかもしれないな」
「どうかな、難しそうな娘だ」
「でも気になるんだろう」
「そうだ」
「今回会ったことでますます気になってきた」
「真一らしくないな」
「こういうのを恋するというのかもしれないな。初めての感情だ。自分でも気持ちを冷静にコントロールできない」
「まあ、頑張ってみることだな、悔いのないように」
「分かっている」
小一時間飲んでマンションに帰ってきた。地味子はすでに帰っていた。昼頃メールが入って、今日は10時過ぎになると連絡があった。俺は11時過ぎと返信しておいた。「ただいま」と部屋に声をかけると「おかえり」と言ってくれた。
シャワーを浴びてベッドで横になる。心地よい疲労が眠気を誘う。絵里香に会えてよかった。メルアドをもらったことを思い出してメールを入れる。グーグルのアドレスだけど繋がるだろう。
[今日は会ってくれてありがとう。また、会いたい。おやすみ]と送った。思いのほか早く、すぐに返信が来た。
[今日はありがとうございました。歌を聞いてくれてありがとう。おやすみ]とだけ書かれていた。
返事をくれたことから、嫌われてはいないと思った。これで安心してぐっすり眠れる。