地味子と偽装同棲始めました-恋愛関係にはならないという契約で!
21.二人でドライブをした!
交際を始める最初のデートをどうしようかと考えた。街中で二人が歩いていると結構人目につく。それでドライブはどうかと思った。地味子に相談すると行きたいと言ってくれた。
土曜日は仕事があるというので、日曜日の朝から出かけることにした。親父が倒れてから乗っていなかった車を使わせてもらっているが、ハイブリッド車で燃費が良い。
9時に白石家まで迎えに行くことになっている。旧市街の住宅地にあった家はすぐに見つかった。そんなに大きな家ではなく、ごく普通の家だった。それに家の前の道路は一方通行で広くない。
駐車していると他の車が通れないので、急いで降りて玄関のドアホンを押す。すぐに返事があり、あの地味子が包みを抱えて出てきた。その後から母親らしき女性が出てきた。落ち着いた感じの女性だ。
「結衣の母親の白石澄子です。わざわざお迎えに来ていただいてありがとうございます。結衣がお世話になります。どうかよろしくお願いいたします」
「初めまして、篠原真一です。お嬢さんをしばらくお預かりします」
「娘にはもう少しオシャレをしないと篠原さんに失礼だと言ったのですが、そういうことに無頓着でお気を悪くなさらないで下さい」
「いえ、そういうところが白石さんらしくて良いと思っています。お気になさらないで下さい」
そうこうしているうちに車が一台来たので、すぐに二人は車に乗って出発した。
「今日は天気も良いので、海岸を回って来たいと思っているけど、いいかい?」
「そうですね。しばらく海を見ていなかったのでいいですね。お弁当を作って来ましたので、お昼は弁当をゆっくり食べられるところを探し下さい」
「白石さんのお弁当か、楽しみだ」
「あり合わせで作りましたので、お口に合えばいいですが」
「同居していた時に朝食や夕食を作ってくれたけど、おいしかったから大丈夫だ」
ここでは20分も走ると海の見えるところへ来る。どんどん海沿いを走って行く。地味子は外の景色を嬉しそうに見ている。俺も日本海を見るのは久しぶりだ。
ドライブに連れて来てよかった。ようやく二人きりになれた。地味子がもう手の内にあるという安心感がある。
「白石さんは運転免許を持っているの?」
「はい、ここへ帰ってきて2か月くらい経つと、どうしても必要と分かったので取りました」
「そうだね、ここでは自動車がないと何かと不便だからね」
「どんな車に乗っているの?」
「母が乗っている軽自動車です。市内だけですからそれで十分です。それに家の前は道が狭いですから」
「免許を持っていらっしゃったんですね」
「ああ、大学を卒業する4年生の夏休みにここへ帰ってきてとった。親父が就職したら取れないから取っておけと言うので」
「この車は篠原さんのですか?」
「親父の車だ。今日は借りてきた。俺もここへ帰ってきてからすぐに教習所へ3日ほど通って練習した。ペーパードライバーだったので免許は当然ゴールドだけどね」
「安全運転でお願いします」
「もちろん、大切な人を乗せているからね」
10時前にまず行こうと思っていた水族館に着いた。
「水族館はどうかと思って来たけどいいかい?」
「水族館なんて小学校以来です」
「ここのジンベエザメが有名なので見たいと思っていたんだ」
「私も見てみたい」
そのサメはとても大きかった。そして水槽はもっと大きかった。二人とも優雅に泳ぐ姿に見入ってしまって時間を忘れた。
「見ていると癒されますね」
「そうだね。ゆったり泳いでいる。見ていると確かに癒される。でも俺があのサメだったら」
「サメだったら?」
「きっと退屈して死んでしまうかもしれない」
「あなたらしいですね」
「まあ、ここにいれば餌は貰えるし、外敵もいない。でも恋をしようとしても相手がいない。可哀そうだ」
「もう一匹入れてあげればいいのにね」
「なかなか捕まえられないのだろう。俺もこうして君を捕まえるのに苦労したからね」
「恋の相手に出会うのはどこの世界でも大変なのでしょう」
「そうだね、だからこの再会を大切にしたい」
「私もそう思っています」
館内を見て回った。いつの間にか手を繋いでいた。どちらからと言う訳でもなく自然につないだみたいだ。気が付くともうお昼近くになっていた。
「どこかでお弁当を食べましょう」
「近くに海水浴場がある。季節外れだから人がいないだろう。行ってみないか」
「海岸に座って海を見ながら食べましょう」
すぐに目的の海水浴場についた。広い駐車場には車が数台とまっているだけだ。これなら落ち着いて海岸で食べられる。地味子は敷物も用意してくれていた。
波打ち際から少し離れた場所で食べることにした。海の方から吹く風が心地よい。地味子の作った幕の内弁当をご馳走になる。
「おいしい、君の手作りの料理を久しぶりに食べた。ありがとう」
「すみません、それ全部私が作った訳ではありません。母が半分くらい作ってくれました」
「黙っていれば分からないのに正直だね。でもお母さんも料理が上手だね」
「母は料理が上手なので私が教わっただけです。今日はお弁当を作って行きなさいと言われてその気になりました。母の言うとおりですね。篠原さんが喜んでくれましたから。母の言うことを聞いてよかったです」
「それで、出来たらその篠原さんはやめてくれないか? 昔のことを思いだすから。よかったら真一さんとか、名前で呼んでくれないか?」
「確かにそうですね。それでよろしければそう呼びます。私も結衣と呼んでいただけますか?」
「呼び捨てはどうも気が引けるから結衣さんと呼ぶことにしよう」
呼び方を変えるだけで親近感が増す。でも今はどうしても「結衣さん」としか呼べない。いつになったら「結衣」と呼べるのだろう?
確かに今座る時も並んでは座ってはいない。弁当を真ん中に置く形で距離を置いて対座している。もっと近づきたいがきっかけがない。いや、きっかけは作るものか?
お弁当を食べ終わると、海外線をずっと走り続けて突端の岬まできた。この岬は海から昇る朝日と海に沈む夕陽が同じ場所で見られることで有名だ。
確かに両側に海が広がっている。灯台があるので二人でそこへ歩いて行く。人がいなくてとても静かな所だ。
「見晴らしがすごくいい。気持ちがいいわ」
地味子が見渡す限りの海を眺めている。目の前の地味子の後ろ姿を思わず抱き締めてしまった。地味子が驚くように身体を硬くするのが分かった。でも逃げようとはしなかった。ただ、じっとしているだけだった。
その抱き締めていた時間がどのくらいだった覚えていない。ほんの一瞬のようでもあるし、すごく長い時間だったような気もする。地味子が動こうとするので、こちらを向かせてキスをした。地味子はそれに従った。メガネがキスの邪魔をする。
そのキスの時間もどのくらいだった覚えていない。俺は地味子の顔が見たくなって唇を放した。地味子は恥ずかしそうに下を向いた。地味子の顎に手を添えて上を向かせた。
初めて近くで地味子の顔を見た。化粧はほとんどしていない。メガネをかけているが目は可愛い。鼻も形が良い。よく見ると可愛い顔だ。小さめの口にピンクの唇。
また、その唇にキスをする。そして強く抱き締める。地味子はもうなすがままになっている。唇を放してからも抱き続ける。放したくない。
後ろで子供の声がした。あわてて地味子が離れようとするので、力を緩めた。二人は何食わぬ顔で距離をとった。でも手は繋いでいる。二人とも手は離さなかった。二人のそばを子供たちが駆け抜けていった。そのあとから両親が追い付いて来た。
俺は地味子とキスをして抱き合えたことで、もう頭が一杯になってボーとして、来た道を歩いていた。地味子も黙って手を繋いで歩いている。顔を見るのが照れくさい。
ようやく車に乗り込んだ。ずっと誰かに見られていたような気がして落ち着かなかった。乗り込んでほっとした。助手席を見ると地味子もほっとしたようすだった。手を握るとこちらを向いたので、またキスをした。地味子もそれに応えてくれた。嬉しかった。
「そろそろ帰ろうか? 帰りは来た道とは違う道にするから」
「それがいいです」
帰り道はほとんど話をしなかった。でも心は通い合っていると思った。地味子もそう思っていたのだろう。ずっと穏やかな表情で海を見ていた。信号待ちの間に手を伸ばして地味子の手を握ると地味子もしっかり握ってくれた。
休憩に海辺のレストランに入ってコーヒーを飲んだ。ここでもほとんど話をしなかった。テーブルの上で手を握り合っていただけだった。あれだけ会いたかったのに、話したかったのに、今はこうして二人でいるだけでよかった。
4時を少し過ぎたころに、地味子の家に着いた。母親が出てきたので、帰りのレストランで買ったお土産を渡した。お弁当のお礼でもある。
立ち話をしているとすぐに車が来たので急いで車を出した。楽しいドライブだった。今度は紅葉を見に二人で山へ行ってみたい。
土曜日は仕事があるというので、日曜日の朝から出かけることにした。親父が倒れてから乗っていなかった車を使わせてもらっているが、ハイブリッド車で燃費が良い。
9時に白石家まで迎えに行くことになっている。旧市街の住宅地にあった家はすぐに見つかった。そんなに大きな家ではなく、ごく普通の家だった。それに家の前の道路は一方通行で広くない。
駐車していると他の車が通れないので、急いで降りて玄関のドアホンを押す。すぐに返事があり、あの地味子が包みを抱えて出てきた。その後から母親らしき女性が出てきた。落ち着いた感じの女性だ。
「結衣の母親の白石澄子です。わざわざお迎えに来ていただいてありがとうございます。結衣がお世話になります。どうかよろしくお願いいたします」
「初めまして、篠原真一です。お嬢さんをしばらくお預かりします」
「娘にはもう少しオシャレをしないと篠原さんに失礼だと言ったのですが、そういうことに無頓着でお気を悪くなさらないで下さい」
「いえ、そういうところが白石さんらしくて良いと思っています。お気になさらないで下さい」
そうこうしているうちに車が一台来たので、すぐに二人は車に乗って出発した。
「今日は天気も良いので、海岸を回って来たいと思っているけど、いいかい?」
「そうですね。しばらく海を見ていなかったのでいいですね。お弁当を作って来ましたので、お昼は弁当をゆっくり食べられるところを探し下さい」
「白石さんのお弁当か、楽しみだ」
「あり合わせで作りましたので、お口に合えばいいですが」
「同居していた時に朝食や夕食を作ってくれたけど、おいしかったから大丈夫だ」
ここでは20分も走ると海の見えるところへ来る。どんどん海沿いを走って行く。地味子は外の景色を嬉しそうに見ている。俺も日本海を見るのは久しぶりだ。
ドライブに連れて来てよかった。ようやく二人きりになれた。地味子がもう手の内にあるという安心感がある。
「白石さんは運転免許を持っているの?」
「はい、ここへ帰ってきて2か月くらい経つと、どうしても必要と分かったので取りました」
「そうだね、ここでは自動車がないと何かと不便だからね」
「どんな車に乗っているの?」
「母が乗っている軽自動車です。市内だけですからそれで十分です。それに家の前は道が狭いですから」
「免許を持っていらっしゃったんですね」
「ああ、大学を卒業する4年生の夏休みにここへ帰ってきてとった。親父が就職したら取れないから取っておけと言うので」
「この車は篠原さんのですか?」
「親父の車だ。今日は借りてきた。俺もここへ帰ってきてからすぐに教習所へ3日ほど通って練習した。ペーパードライバーだったので免許は当然ゴールドだけどね」
「安全運転でお願いします」
「もちろん、大切な人を乗せているからね」
10時前にまず行こうと思っていた水族館に着いた。
「水族館はどうかと思って来たけどいいかい?」
「水族館なんて小学校以来です」
「ここのジンベエザメが有名なので見たいと思っていたんだ」
「私も見てみたい」
そのサメはとても大きかった。そして水槽はもっと大きかった。二人とも優雅に泳ぐ姿に見入ってしまって時間を忘れた。
「見ていると癒されますね」
「そうだね。ゆったり泳いでいる。見ていると確かに癒される。でも俺があのサメだったら」
「サメだったら?」
「きっと退屈して死んでしまうかもしれない」
「あなたらしいですね」
「まあ、ここにいれば餌は貰えるし、外敵もいない。でも恋をしようとしても相手がいない。可哀そうだ」
「もう一匹入れてあげればいいのにね」
「なかなか捕まえられないのだろう。俺もこうして君を捕まえるのに苦労したからね」
「恋の相手に出会うのはどこの世界でも大変なのでしょう」
「そうだね、だからこの再会を大切にしたい」
「私もそう思っています」
館内を見て回った。いつの間にか手を繋いでいた。どちらからと言う訳でもなく自然につないだみたいだ。気が付くともうお昼近くになっていた。
「どこかでお弁当を食べましょう」
「近くに海水浴場がある。季節外れだから人がいないだろう。行ってみないか」
「海岸に座って海を見ながら食べましょう」
すぐに目的の海水浴場についた。広い駐車場には車が数台とまっているだけだ。これなら落ち着いて海岸で食べられる。地味子は敷物も用意してくれていた。
波打ち際から少し離れた場所で食べることにした。海の方から吹く風が心地よい。地味子の作った幕の内弁当をご馳走になる。
「おいしい、君の手作りの料理を久しぶりに食べた。ありがとう」
「すみません、それ全部私が作った訳ではありません。母が半分くらい作ってくれました」
「黙っていれば分からないのに正直だね。でもお母さんも料理が上手だね」
「母は料理が上手なので私が教わっただけです。今日はお弁当を作って行きなさいと言われてその気になりました。母の言うとおりですね。篠原さんが喜んでくれましたから。母の言うことを聞いてよかったです」
「それで、出来たらその篠原さんはやめてくれないか? 昔のことを思いだすから。よかったら真一さんとか、名前で呼んでくれないか?」
「確かにそうですね。それでよろしければそう呼びます。私も結衣と呼んでいただけますか?」
「呼び捨てはどうも気が引けるから結衣さんと呼ぶことにしよう」
呼び方を変えるだけで親近感が増す。でも今はどうしても「結衣さん」としか呼べない。いつになったら「結衣」と呼べるのだろう?
確かに今座る時も並んでは座ってはいない。弁当を真ん中に置く形で距離を置いて対座している。もっと近づきたいがきっかけがない。いや、きっかけは作るものか?
お弁当を食べ終わると、海外線をずっと走り続けて突端の岬まできた。この岬は海から昇る朝日と海に沈む夕陽が同じ場所で見られることで有名だ。
確かに両側に海が広がっている。灯台があるので二人でそこへ歩いて行く。人がいなくてとても静かな所だ。
「見晴らしがすごくいい。気持ちがいいわ」
地味子が見渡す限りの海を眺めている。目の前の地味子の後ろ姿を思わず抱き締めてしまった。地味子が驚くように身体を硬くするのが分かった。でも逃げようとはしなかった。ただ、じっとしているだけだった。
その抱き締めていた時間がどのくらいだった覚えていない。ほんの一瞬のようでもあるし、すごく長い時間だったような気もする。地味子が動こうとするので、こちらを向かせてキスをした。地味子はそれに従った。メガネがキスの邪魔をする。
そのキスの時間もどのくらいだった覚えていない。俺は地味子の顔が見たくなって唇を放した。地味子は恥ずかしそうに下を向いた。地味子の顎に手を添えて上を向かせた。
初めて近くで地味子の顔を見た。化粧はほとんどしていない。メガネをかけているが目は可愛い。鼻も形が良い。よく見ると可愛い顔だ。小さめの口にピンクの唇。
また、その唇にキスをする。そして強く抱き締める。地味子はもうなすがままになっている。唇を放してからも抱き続ける。放したくない。
後ろで子供の声がした。あわてて地味子が離れようとするので、力を緩めた。二人は何食わぬ顔で距離をとった。でも手は繋いでいる。二人とも手は離さなかった。二人のそばを子供たちが駆け抜けていった。そのあとから両親が追い付いて来た。
俺は地味子とキスをして抱き合えたことで、もう頭が一杯になってボーとして、来た道を歩いていた。地味子も黙って手を繋いで歩いている。顔を見るのが照れくさい。
ようやく車に乗り込んだ。ずっと誰かに見られていたような気がして落ち着かなかった。乗り込んでほっとした。助手席を見ると地味子もほっとしたようすだった。手を握るとこちらを向いたので、またキスをした。地味子もそれに応えてくれた。嬉しかった。
「そろそろ帰ろうか? 帰りは来た道とは違う道にするから」
「それがいいです」
帰り道はほとんど話をしなかった。でも心は通い合っていると思った。地味子もそう思っていたのだろう。ずっと穏やかな表情で海を見ていた。信号待ちの間に手を伸ばして地味子の手を握ると地味子もしっかり握ってくれた。
休憩に海辺のレストランに入ってコーヒーを飲んだ。ここでもほとんど話をしなかった。テーブルの上で手を握り合っていただけだった。あれだけ会いたかったのに、話したかったのに、今はこうして二人でいるだけでよかった。
4時を少し過ぎたころに、地味子の家に着いた。母親が出てきたので、帰りのレストランで買ったお土産を渡した。お弁当のお礼でもある。
立ち話をしているとすぐに車が来たので急いで車を出した。楽しいドライブだった。今度は紅葉を見に二人で山へ行ってみたい。