一目惚れの彼女は人の妻
爽やかイケメン痴漢男〜宏美Side〜
 ソメイヨシノの開花予想がされ、冬の厚手のコートから、薄手のスプリングコートに替えた頃の事。

 いつもの駅で降りてホームを歩いていたら、黒白のメイド服を着た女の子、いわゆる"コスプレ美少女"が目に止まり、思わず私は歩みを遅くした。

 そういう子を、その駅ではよく見かけるので、珍しくはないのだけど、今回はちょっと様子がおかしい。見れば、そのコスプレ美少女は、若い男性の腕を掴んでいて、そのすぐ横には、制服を着た駅員さんがいた。

 コスプレ美少女に腕を持たれた男性を見ると、鼻の下を伸ばしてる、のではなく、ムスッと、怒ってるらしい。

 それにしても、なんて可愛い顔をしてるんだろう。

 と言っても、顔が可愛いのは、コスプレ美少女ではない。そっちの子は、メイクが濃過ぎて判定不能。可愛いのは、男性の方だ。

 グレーのスーツを着てるからサラリーマンだと思うけど、髪は栗色でスタイルが良く、まるでアイドルみたい。

「イヤねえ、痴漢だってよ?」

 近くのおばさんの、誰かに話す声が聞こえた。

「しかも常習犯だって。人は見かけに依らないわね?」

 うそでしょ? あんな可愛い顔した男性が、痴漢?

 でも、正にそんな状況で、もはや疑う余地はないと思う。さっきのおばさんじゃないけど、人は見かけに依らないのね……
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