一目惚れの彼女は人の妻
「お配りしたアジェンダをご説明いたします。まず、この度のプロジェクトの主旨をご説明し、次に弊社がご提案するハード構成を……」

 おかげで緊張が取れた俺は、アジェンダの説明を淡々と行う事が出来た。その後は斎藤さんに任せ、俺はひたすらメモを取った。議事録を書くために。

 もちろん、合間合間に宏美さんを見たが、隣の旦那、もとい篠崎課長は、敢えて見ないようにしていた。

 ちなみに、篠崎課長は当然ながら俺の視界に入っていたはずだが、敢えて見ないという”芸当”が出来ていたのだ。人間の目、あるいは脳って、すげえな。

 そうか。これからもこの技を使えばいいんだ。やったね。

 2時間ほどで最初の会議、つまりキックオフミーティングは終わった。次回の会議まで宏美さんに会えないわけで、それを思うと悲しくなる。

「では、後ほど」

「楽しみですな」

 帰り間際、斎藤さんと田中部長はそんなやり取りを交わしていた。”後ほど”って何だろう。次回の会議を”後ほど”って言うかなあ。

 帰りながら、その疑問を斎藤さんに言ってみたら、

「今夜は、ほぼ今日のメンバーで懇親会だよ。おまえにも言ったはずだぞ」

 と言われてしまった。そう言えば、そんな事を言われたような気もする。
 懇親会って、つまりは飲み会だよなあ。今日のメンバーって事は、宏美さんも参加だよな?

 よっしゃ!

 あれ? 斎藤さんは、”ほぼ”って言ったよな。という事は、誰か欠席なのかな。
 旦那、もとい篠崎課長が欠席だったらいいなあ。家に小さな子どもがいるんだから、有り得るなあ……って、ダメじゃん。子どものために欠席なら、むしろ宏美さんの方だろう。

 宏美さんが欠席なのは”ほぼ”間違いないと思い、俺はがっくりと肩を落とすのだった。
< 25 / 100 >

この作品をシェア

pagetop