一目惚れの彼女は人の妻
「"お兄ちゃん"なんて呼んだら、あたし達が兄妹って事、バレちゃうじゃん」

「事実なんだから、構わないだろ?」

「イヤ。それじゃベタベタ出来ないもん」

 "だったらベタベタしなきゃいいだろ?"と言おうと思ったがやめた。なぜなら、いつもこんな言い合いをしていて、何の成果もなく、言うだけ無駄だからだ。

 恵美は銀行員で、兄の俺から見てもそこそこの美人だ。このところ彼氏がいないらしく、いつの頃からか休日は俺にベッタリくっ付くようになってしまった。

 俺にも彼女はいないから、別に構わないと思う一方、二人ともいい歳をして、こんな事でいいのだろうか、とも思う。

 恵美には買い物がないとの事で、恵美が勝手に名付けた名前だが、"ピラ男"のエサが入ったレジ袋を手にぶら下げ、俺達は店を出た。

 店の外に園芸コーナーがあり、たくさんの植木や花が並べて売られているが、俺は植物には殆ど興味がなく、いつも素通りしていた。ところが、

「うわあ、綺麗なお花がいっぱいある。俊君、見に行こうよ?」

 と、恵美が言い出した。

「俺はいい。花なんて興味ないから」

 そう俺が答えると、何度か押し問答の末、

「じゃあ、俊君はここで待ってて? あたしだけ見てくるから」

 という事になった。よっぽど先に帰ろうかとも思ったが、それでは冷たすぎると思い、近くの花やら植木やらを見るともなく見て、恵美が戻るのを待っていた。

 春の暖かい陽射しのせいか眠くなり、伸びをしようと腕を横に上げた時、手の先に、むにゅっという感触があった。
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