一目惚れの彼女は人の妻
 宏美さんも酒は好きな方で、やはり懇親会では不完全燃焼だったらしい。

 ビールで乾杯した後は冷酒に替え、焼き鳥とか肉じゃがとかをじゃんじゃん頼んだ。ただ、会話がちょっとおかしい。俺は宏美さんの家庭事情に触れたくなくて、自然と聞き役になるのだが、宏美さんの質問が意味不明と言うか……

 もっとも、こうして憧れの宏美さんと向き合い、話している事自体、俺には夢のような出来事のわけで、構わないのだけれども。

 例えば、こんな感じだった。

「ズバリ聞くわよ。いい?」

 宏美さんはそう言い、真剣な目で俺を見た。と言っても、目そのものはアルコールのせいで潤んでおり、トロンとしているのだが。

 余程重要な質問だと思い、「どうぞ」と言い、俺は緊張して宏美さんが言うのを待ったのだが……

「趣味は何?」

 はあ?

 ”ズバリ聞く”質問が、宏美さんじゃないけど”それなの?”って感じ。俺が拍子抜けしてたら、

「正直に話してちょうだい」

 なんて言われた。しょうがないから答えるとするか。目下、俺の趣味と言えば、やはりアレだろうな。

「熱帯魚です。正確に言えば、熱帯魚を飼う事です」

 すると宏美さんは、なぜか怒ったみたいで、

「嘘ばっかり!」と言った。
< 31 / 100 >

この作品をシェア

pagetop