一目惚れの彼女は人の妻
「嘘じゃないですよ……」

「可愛いお魚を飼うのが趣味なわけ?」

「可愛い、というのは少し違うかもですね。俺、いや僕にとっては可愛いですけど、客観的に見たら可愛いどころか、恐ろしい魚だと思うんですよね」

「そうなの? どんなお魚? それと、”俺”でいいから」

 なぜか宏美さんは、急に食いついてきた。例は良くないが、ピラニアみたいだ。
 俺が飼ってるのはそのピラニアなわけだが、さてどうしようかな。特に女性は引くと思うんだよなあ。でも、事実だからな。言っちゃおう。

「ピラニアです。正確に言えば、ネグロ産のブラックピラニアです」

 俺はたぶん、ドヤ顔になっていたと思う。解る人には解ると思うが、俺はあのピラ男を手に入れるのに、どんなに苦労した事か。探しに探し、待ちに待ち、最後は大枚を叩いたのだ。

「それって、獰猛な魚よね?」

「そうですね」

「可愛い金魚ちゃんなんか、一口で食べちゃうんでしょ?」

「まあ、そうですね」一口ではないけども。

「俊君は、それを見て喜んでるのよね?」

「そ、そんな事は……」

 ない、とは言えなかった。だって、そういうところが肉食系観賞魚の醍醐味だから。

「あるのよね?」

「少し」

「やっぱりね」

「え?」

 何が”やっぱり”なんだろう。宏美さんの意図が、さっぱり解らないんですけども?

「もしかして、エッチな映画とか動画も好きでしょ?」

「はあ?」

 また宏美さんは、妙な事を聞いてきた。

「どうなの?」

「そりゃあ、好きですね」

「やっぱりね」

「ちょっ、俺も男なんで……」

「もういいわ。わかったから」

 だから、何がわかったんですか? 宏美さん!

 と、こんな会話だったのだ。
 
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