一目惚れの彼女は人の妻
 それを課長に申し出ようと思ったら、

「それは大丈夫」

 と課長に言われ、私は正直なところホッとした。

「懇親会と言ってもただの飲み会だから、仕事の込み入った話はしないはずだよ。おそらく田中部長の独演会になるんじゃないかな。相撲とか野球の話で」

 げっ、そうだった。田中部長って、いつも話の中心にいないと気が済まない、みたいな人だった。しかも、私には全く興味がない相撲とか野球の話を聞かされると思うと、気が重くなってしまう。

 あ、そうか。その時は俊君を眺めていればいいんだわ。話が出来れば、なお結構だけど。

「宏美ちゃん」

 課長、もとい充さんは、顔を私に近付け、一層の小声で私の名を呼んだ。

「はい?」

 私も同様に、囁くような声で応じた。

「酒豪の君には物足りないと思うから、例のイケメン君と二次会に行くといいよ」

「そ、そうですね」

 俊君と二人で二次会か……
 想像したら、わくわくしちゃった。ちなみに”酒豪”の部分には突っ込まなかった。事実だから。

「たまには、羽目を外すのもいいんじゃないかな」

「そう……ですかね?」

 と応じたものの、本当に羽目を外す事になるとは、この時の私は知る由もなかった。

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