一目惚れの彼女は人の妻
 俊君って、何歳なんだろう。初めは二十代前半ぐらいだと思っていたけど、今日の仕事ぶりとか見てると、もっと上な気がする。仮に28歳と仮定すると、私は32歳だから4つ下って事になるのかあ。

 俊君とは通勤の路線はもちろんだけど、乗る駅も降りる駅も同じだって事が判った。電車で遭わないのは、私の会社が俊君の会社より始業時刻が1時間遅く、代わりに終業も1時間遅いかららしい。

 もっとも、私は一度だけ俊君を見たけどね。俊君が、コスプレ美少女に痴漢して、捕まってるところを。

 あ、そうだ。この機会に、俊君の痴漢癖(?)を追求しちゃおうっと。と言ってもあからさまでは俊君に嫌われちゃうから、それとなく、さりげなく……

 とは思うけど、まずは直球を投げて様子を見るって事で、

「ズバリ聞くけど、趣味は何? 正直に話してちょうだい」

 と聞いてみた。有り得ないとは思うけど、”痴漢です”と俊君が白状したら、話は早いと思ったから。

 固唾を飲んで俊君の答えを待つと、俊君は少し考えてから、

「熱帯魚です。正確に言えば、熱帯魚を飼う事です」

 と言い、私は思わず、

「嘘ばっかり!」

 と言ってしまった。痴漢と熱帯魚の、あまりなギャップのせいで。
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