一目惚れの彼女は人の妻
「嘘じゃないですよ……」

「可愛いお魚を飼うのが趣味なわけ?」

「可愛い、というのは少し違うかもですね。俺、いや僕にとっては可愛いですけど、客観的に見たら可愛いどころか、恐ろしい魚だと思うんですよね」

 あ。俊君が”俺”って言った。ギャップと言えば、可愛い顔した俊君が”俺”って言うのも、ギャップだわ。萌えちゃいそう。

 それと、”恐ろしい魚”って何だろう。熱帯魚って金魚みたいなイメージだけど、違うのかしら。もしかすると、そこに俊君の痴漢癖に繋がる何かがあるのかも……

 という事で、

「そうなの? どんなお魚?」

 と聞いてみた。ついでに、

「それと、”俺”でいいから」

 とも。すると俊君は少し考えてから、

「ピラニアです。正確に言えば、ネグロ産のブラックピラニアです」

 と言った。後半は何を言ってるのかさっぱりだけど、ピラニアなら私も知っている。アマゾンの川に棲み、鋭いギザギザの歯で、生き物なら何でも襲って食べちゃう怖い魚。あれを飼う人って、いるんだあ。

「それって、獰猛な魚よね? 可愛い金魚ちゃんなんか、一口で食べちゃうんでしょ?」

「まあ、そうですね」

「俊君は、それを見て喜んでるのよね?」

「そ、そんな事は……」

「あるのよね?」

「少し」

「やっぱりね」

 やっぱり繋がったわ。つまり俊君には、嫌がる女性を虐める事で、それに快感を覚える癖(?)があるんだと思う。そうは思いたくなかったけども。
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