一目惚れの彼女は人の妻
 すると、俊君が私の背中に手を回し、脇の下に手を差し込んで私を支えてくれたのだけど、その手で、またしても胸を触れてしまった。

 しかも今回のは今までのより大胆になっていて、俊君の手の平で、しっかり触れている。手の平だからアウトなんだけど、私は抵抗せず、むしろ気付かないフリをした。

 たぶんタクシー乗り場へ向かっていると思うけど、私は密かに横目で見て、おあつらえ向きの場所を見つけた。それは公園。街頭に照らされた新緑が綺麗で、当然だけど誰もいなさそう。

「俊君、あっちに行こうよ?」

 私はその公園を指さし、呂律の回らない言い方で俊君に言った。

「何を言ってるんですか。もう遅いんだから、帰りますよ?」

 俊君は、当然ながらそう言ったのだけど、

「イヤ。行こうよー?」

 と、私は鼻に掛かった声で言い、俊君の腕をグイグイ引っ張った。何がなんでも公園に行くために。

 俊君が本気で抵抗したら敵わないと思ったけど、彼はすぐに諦めたようで、私は俊君の腕を引きながら、夜の公園に入って行った。ある一大決心を、胸に秘めながら。
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