一目惚れの彼女は人の妻
 公園にはやはり誰もいなくて、私はさりげなく、人目を避けられそうな位置で足を止めた。

 俊君は上を見上げ、たぶん新緑を見てると思うけど、私は自分の上着のボタンに指を掛け、一つ、また一つ外していった。それを全部外すと、次は白のブラウスのボタンを外すべく、それに指を掛けたところで、

「ちょっと、何やってるんですか!」

 俊君に怒られてしまった。想定内だけども。

「俊君、触りたいでしょ? 女の人に」

「そりゃあ、俺も男ですから」

「やっぱりね。そういう時は私を触って? 他の人には触らないで、代わりに私に触ってほしいの」

 そう。これが電車の中で思い付いた私のアイデアで、俊君の痴漢癖を治すための治療法、もしくは対処法だ。

 つまり、私は自分の身を犠牲にし、俊君の欲求を全部私が引き受けようと思う。
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