一目惚れの彼女は人の妻
「じゃあ、触りますよ?」

「うん」

 私は目を閉じ、俊君は私のどこを触るのかなと考えた。自慢の胸は飽きたっぽいからスルーかしら。となると、お尻?

 お尻ぐらいなら、とも思うけど、私は確か、どこでもいいと言ったと思う。しかも"好きなだけ、気が済むまで"とも。言い過ぎだったと思うけど、今更よね。

 という事は、お尻だけでは済まないと思う。つまり……あそこ?

 あそこを俊君の細い指でなぞられるのを想像したら、ちょっとだけジュンってなって、体が小刻みに震え出した。でも、それは怖いからじゃない。武者震いだわ。たぶん。

 そんな事を考えていたら、私の左の頰に何かが触れた。それは、俊君の手の平だと思う。

 温かくて、気持ちいいなあと思っていたら、今度は私の唇に何かが触れた。

 キスされたの!?

 って、一瞬思ったけど、そうではなく、たぶん俊君が、親指で私の唇をソフトタッチでなぞっているのだと思う。男の人からこんな風にされたのは初めてだと思うけど、なんか、いいかも。

 気持ち良くて、淫らな感じがする。でも、これはほんの序章に過ぎないはず。次はどこを触られるんだろうと、期待と不安な気持ちで待っていたら……

「終わりました」

 と俊君は言い、私の頰から、俊君の手が離れてしまった。

 私は、ただただ呆気に取られるばかりだった。今の状況が飲み込めなくて。
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