一目惚れの彼女は人の妻
「普通はそうよね?」

 え? 私、また声に出してた?

「だとするとさ、警察から俊君の会社に問い合わせだか照会だかされて、会社にバレると思うのね。よく知らないけど。そんな事になったら、俊君には一大事じゃない? サラリーマンにとっては致命傷だと思う」

「確かに、そうだわ。そんな事になったら、処分は免れないし、下手したら解雇されるわよね?」

「でしょ? 俊君の会社はうちより大きいし、コンプライアンスには厳しいはずだわ。それなのに、普通に開発の担当をさせてもらうって、あり得ないでしょ?」

「確かに」

「たぶん痴漢容疑は濡れ衣で、あんたが行った後、無実が晴れたんじゃないの?」

「たぶん、そうだと思う。加奈子って、頭いいね!」

「そんな事ないよ。あんたが……」

 で、加奈子は口を閉じたけど、"バカなだけよ"と続けようとしたと思う。実際のところ、私もそう思った。今まで気付かなかったけど。

「加奈子、ありがとう。私、本人に聞いてみる。念のために」

「うん、そうしなよ。ついでに、"私は人妻じゃありません"って言うのよ。いい?」

「はーい」

「あ、それと……」

 加奈子はまだ何か言うのかな、と思ったら、

「そのお焦げ、少し貰っていい?」

 だって。石焼ビビンバはお焦げが一番美味しいんだけど、今日は加奈子に大感謝だから……

「少しと言わず、全部あげる。はい」

「い、いいよ、少しで」

「そう言わずに……」

 気付けば、再びテンションが上がる私だった。
< 65 / 100 >

この作品をシェア

pagetop